土地改良事業による水利組織の変容と再編 : 滋賀県大津市仰木地区の井堰親(いぜおや)制度を事例として
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概要
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本稿では,水利システムの組織的工夫の実態分析を通じて,地域社会が,社会経済的な外部的変化に柔軟に対応するために,どのような共的資源管理の社会的仕組みを持っており,またそれを変容させてきたのかを明らかにする。具体的には,滋賀県大津市仰木地区での土地改良事業による水利組織の変化を事例として,水利組織の機構・構成員・管理内容・費用負担を調査した。従来の水利研究では,「古田優位」の原則と「上流優位」の傾向が明らかにされてきた。しかし,この仰木地区の水利慣行である井堰親制度においては,「下流」の末端部に位置する水田所有者を「井堰親」と呼び,水利管理責任者としてきた。これは一種の「逆転の管理」であり,これにより下流まで平等な水の分配を可能にしてきたと考えられる。土地改良事業の結果,「平常」時においては,水管理機能は土地改良区,井堰組織,配水ブロックの3者に分化した。しかし,渇水が生じた「非常」時においては,土地改良区と井堰組織間や成員間の関係が相互に組み変わる「ダイナミックな重層性」が生成される。つまり,水が本来的に持っている「変動性」に応じて,私的所有地(個々の水田)としての管理を越えて,共同性が生成されるのである。コモンズとして水利システムを捉えることで,それは単に水の共同利用・管理だけでなく,土地を「つなぐ」社会的仕組み(「コモンズ複合」)として理解することができるのである。近代的な土地改良事業が,共的資源管理を破壊するだけでなく,そこに新たなコモンズともいえる共同性を生成する本稿の事例は,共的資源管理研究としてのコモンズ論に新たな視点を加えることにもなろう。
- 環境社会学会の論文
- 2003-10-31