水俣病患者第二世代のアイデンティティ : 水俣病を語り始めた「奇病の子」の生活史より
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概要
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この論文においては、水俣病生活被害の社会的側面に焦点を当てる目的で、初期の劇症患者の子弟であるが、既往症がなく、青年期以降他出して水俣病事件の当事者にならなかった個人の生活史を見ていく。これまでの水俣病に関する研究蓄積から推察される通り、水俣病患者家族が経済的貧困に陥り、地域の差別の対象となっていたことが具体的に示されるとともに、ここでは、ある時点から患者家族であることを公にし、むしろ積極的に患者家族として社会と関わることを選択するようになった事例を扱うことによって、患者家族にまつわる諸困難をどのように乗り越えていったのかという過程を描いていく。そこで明らかになったことは、「奇病の子」というスティグマ化した自己という重荷を水俣地域から他出したことにより軽減し、他者との関わり方によって、水俣病患者の子であることにむしろ積極的な意味を見い出し、さらには社会的資源として活用していくという、今までの患者家族像とは異なる水俣病第二世代としての新しいアイデンティティであった。
- 1997-09-20