東洋の伝統劇における様式性--韓国の民俗劇を中心に
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概要
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古来の東洋演劇は西洋のそれとは異なり、地域に関わらず、全体的に様式化された形態を持つ特性がある。また、西洋演劇で重視されるプロット(筋書き)やことば(台詞)よりも、音楽や舞のようなスペクタクルを最も重要な要素として位置付けている。東洋の伝統劇においては、音楽と舞は必要不可欠な関係にあり、全体として音楽、舞、劇が未分化された状態で一体になっている。これは東洋演劇の起源から今日に至るまで、一つの伝統として受け継がれてきている。また、その流れは写実主義や劇的幻想からかけ離れており、リアリズムを目標とするものはほとんどない。したがって観客は、劇の流れや筋立てに没入せず、想像力を働かせて自分なりに内容を解釈したり、あるいは客観的な立場で劇を見物しているのである。さらに多くの場合、観客が演劇に関与できる環境さえも保証されている。まさにPronkoの指摘通り、東洋演劇の特性は、関与的(participated)、全体的(total)、様式的(stylized)であるといえる。本稿では、東洋の伝統劇における様式性と関与性について考察した後、その具体例として韓国の代表的な民俗劇「タルチュム」を取り上げ、形式的にどのような様式性がみられるかについて考察を行う。例えばタルチュムの中に登場する人物像は、社会的身分や立場によって類型化され、互いの葛藤関係や対立構造にも様式化されたパターンがあらわれる。また劇の補助的な役割を持った楽士、あるいは観客が劇中に関与することもしばしば見られる。