需要予測と市場行動に関する考察(1) : SISとマーケティングシミュレーション技法
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概要
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市場行動分析では, 企業の戦略立案の立場から, (1)需要予測, (2)競合分析等がその重要な役割を果たしている.(1)需要予測を測定するために, 消費者の購買意思の決定要因を調査する選好分析では, コンジョイント分析が, また新製品の市場拡散ではプリテスト・マーケティングモデル分析が, しばしば利用される. 一方, (2)競合分析では企業の市場行動について, 戦略モデルとして, ゲーム理論的視点から多彩な分析が行われて来た.従来, 市場実験としての市場行動シミュレーションでは, 経営コントロールの観点からモデル構築は, 要素還元的アプローチに基づく手法, 即ち市場をセグメント化し, 各要素それぞれを分析し, これを基礎に総体を理解する立場を採用する, いわば各論分析から帰納的に総論理解に及ぶ手法が中心的であるが, 尚, 批判も多い. 一方で, 要素還元的アプローチの反省から, フラクタル的アプローチ, 即ち各エージェント間の因果関係に注目し, エージェント間の創発性 (各エージェントが相互作用を繰り返すことにより総体としての性質が生じ, 総体から各エージェントに影響を与える) を分析する立場がある.近年の IT (情報技術) の進展により, 需要予測, 競合分析の諸要因の関連性から市場行動の諸モデルにコンピュータプログラム化が進められ, 更にはシミュレータの開発が顕著に進展しフラクタル的アプローチに道を開き, 経営戦略意思決定の為の情報システム (SIS) のモデルベースが構築されるようになった. フラクタル的アプローチでは, 例えば, マルチエージェント分析手法として, オブジェクト指向の 「StarLogo」 (MIT), さらには 「SWARM」 (SFI: Santa Fe Institute), 「ABS: Agent Based Simulator」 (情報処理振興事業協会/(株)構造計画研究所) に見るマルチエージェント型シミュレータのプラットホームが導入され, より精緻な分析を試みる動きが出てきた.先ず本稿 (第 1 章) に於いて, 需要予測モデルについて, 要素還元的アプローチによるシミュレーションとフラクタル的アプローチによるそれを比較検討してみる.(展開)本稿 (第 1 章) では, 需要予測を中心に市場行動モデル分析の発展を概観するに際し, 従来の要素還元法的アプローチに基づく手法に立ち, 問題点を指摘し, 次に, 新たに IT 技術の発展により考案され成果を挙げつつあるフラクタル的アプローチから, 人工市場において企業 (プレイヤー) のエージェントを発生させ, 各エージェントに効用関数による効用値を設定し, モンテカルロシミュレーションし, 効用関数のモデル化につき評価を行い, シミュレーションすることにより, 両者を戦略情報システムの視点から比較検討することを目的とする.(想定する成果)市場行動分析において需要予測シミュレーション手法は, モデルとしての整合性, 合理性と予測と実際値との検定による乖離が少ないという信頼性が問題になる. 中長期の市場成長や製品市場のライフサイクル段階において, 市場成長の著しい成長期には要素還元的アプローチが有効性を持つ. 一方, 短期の市場変動や市場成熟期には, 市場構成の主要因が, 寡占等, または不完全情報下の計量化し難い嗜好性や口コミ等の要因へと主要因がシフトし, フラクタル的アプローチが有効性を持つ可能性がある. シミュレーションモデルとしての精緻さを重視するよりも, 経営的判断レベルから市場の特殊要因や主な市場構成要因分析により, その製品市場のライフサイクル・アセスメントから採用すべき市場分析手法を決定すべきであり, その意味で経営情報システムがより市場指向で, 信頼性あるシミュレーションモデルを内在化する必要性がある.尚, 本稿 (第 1 章) は 2000 年度日本福祉大学課題研究費の助成による一連の研究分析の導入部分である.
- 日本福祉大学の論文
- 2001-06-30
著者
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- 宮川公男著『経営情報システム』中央経済社 1995年