アスーステック・コンピューター社の能力構築と製品の高付加価値化戦略
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概要
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近年、世界パソコン業界においては「ネットブック」という破壊的イノベーションが再び迫っていると言われている。その火付け役は台湾系メーカーのアスーステック・コンピューター社が2007年10月に発表した「Eee PC」機種である。同社はEee PCという発想を具現化するまでの十年間で、実際に世界的なデザイン賞に輝いたノートパソコン製品を数多く生み出してきた。製品技術の破壊的イノベーションを次々と生み出すために、製品を高付加価値化する技術知識と経験を先に身につけることが不可欠であると考えられる。本稿の目的は、アスース社がノートパソコンの高付加価値化を達成するまでの地道な努力を、「製品開発面での能力構築」の視点から解明することである。その要件としては「プロダクト・マネジャーによる統合活動」に注目して事例分析を行った。アスース社の事例分析で明らかになったことは以下の三点に集約できる。第一は、製品開発の外的統合におけるプロダクト・マネージャーとプロジェクト・マネージャーとの協力関係である。プロジェクト・マネージャーは代理店と量販店との緊密な連携や、クレーム処理およびアフターサービスのイベントなどを通じて顧客とのインタフェースの構築に取り組んでいる。プロダクト・マネージャーはプロジェクト・マネージャーとの師弟関係を通して顧客ニーズに関する最新情報を入手し、それを製品コンセプトの策定に確実に反映する。両者の間には顧客が期待する製品のコンセプトを練り上げる外的統合の協力関係が見られる。第二に、プロダクト・マネジャーの統合機能と非公式組織での技術スタッフの伝達機能により、開発設計と生産部門の学習活動が強く促進されかつ連動される傾向が見られる。こうした内的統合の高度化に伴い、ノートパソコンメーカーが開発期間の短縮、品質の向上や製造コストの削減などの内面的な競争力を高めていくだけでなく、製品のファッション性、高級感や実用性などの付加価値をユーザーに続々と提供していくことも期待できる。第三に、プロダクト・マネジャーは、製品の高付加価値化を達成するために、製品開発システムを、外部異種技術を融合するオープンなプラットフォームの形へ推進する必要がある。そこで、プロダクト・マネジャーもまた外部技術を取り入れた高付加価値製品の創出をめぐり、開発設計と生産部門の学習活動を融合する方法と専門知識を継続的に学ばなければならない。
- 2010-09-30
著者
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