転身の物語り : サン研究における「家族」再訪(<特集>親子のつながり-人類学における親族/家族研究再考)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本論文では、サン研究における家族・親族概念の位置づけを再考する。「伝統派」と呼ばれる初期の研究は、サンの1グループであるジュホアンを現代の狩猟採集民と位置づけ、彼らは家族的な結合に基づいたシンプルな形でその社会秩序を維持していると主張した。これに対して「見直し派」は、近隣諸民族を含めたより大きな政治経済的システムにジュホアンを位置づけ、その親族間の関係が土地への権利や交易のネットワークを支えていると論じた。ナミビア北中部のクン・サンはジュホアンとの地域比較に適している。本論では以下のライフストーリーの分析から、彼らのエスニシティと家族・親族関係の関わりを明らかにする。分析ではとくにクンやハイオム・サンの双系の氏のシステムと近隣の農牧民オバンボの母系のクラン・システムの関係に注目する。(1)クンの母親とオバンボの父親を持ちオバンボとして育った男性が、父親の死後はクンとして生活している。(2)ハイオムの両親を持つ男性がクンの女性と結婚し、クンのキャンプのヘッドマンとなっている。(3)クンの少女がオバンボのもとで里親養育を受けたが、第3子の妊娠を機にクンのキャンプに戻った。ナミビア北中部では、アパルトヘイト体制を進めた植民地政府の意図に反して、複数のエスニック・グループが協力関係を築いてきた。本論で例にあげた家族・親族関係は、そうしたグループ間の境界をつなぐ経路を提供するとともに移動先で新たな生活世界を構築する基盤となっている。エスニシティは慣習の束であり、人々はその場の相互行為で利用可能な資源や相手との関係の歴史を参照しつつどの慣習を採用するか決めている。これが一貫するためには、構造の持続性と連続性を備えた相互行為の場が必要である。以上からクンが住む地域社会を理解するためには、伝統派とも見直し派とも異なり「他者」との関係を包含する理論枠組みから家族・親族をとらえる必要がある。
- 2011-03-31
著者
関連論文
- Narratives of changes in life: revisiting the "family" in San studies (特集 親子のつながり--人類学における親族/家族研究再考)
- 転身の物語り--サン研究における「家族」再訪 (特集 親子のつながり--人類学における親族/家族研究再考)
- 転身の物語り : サン研究における「家族」再訪(親子のつながり-人類学における親族/家族研究再考)
- 亀井伸孝著, 『森の小さなたち:狩猟採集民の子どもの民族誌』, 京都, 京都大学学術出版会, 2010年, 306頁, 3,400円(+税)