SPS2000の発電技術総論
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概要
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SPS2000の発電部の概念設計では,太陽電池セルとして,大量生産が可能で近未来に低コストが期待でき,宇宙への輸送と展開に有利なフレキシブルアモルファスシリコン薄膜太陽電池を選定している.SPS2000の発電部では16MWの太陽電池を必要とするが,アモルファスシリコン太陽電池は現在我が国で年間わずか10MW程度しか生産されていない現状である.ただしアモルファスシリコン太陽電池は結晶系シリコン太陽電池の次の太陽電池として近い将来100MW規模の生産が予想される段階にきている.現在アモルファスシリコン太陽電池の効率は10%弱であるが,将来的には15%前後が期待されている.SPS2000の概念設計では効率15%,重量比出力1kW/kgを仮定している.太陽電池アレイの電圧は,集電ケーブルでの熱損失とプラズマとの干渉の問題,及び,将来のより大電力のシステムへの発展性を考慮して1kVとしている.SPS2000の太陽電池モジュールの設計は,6章 "SPSの研究開発シナリオとMDS-3による宇宙実証計画"の著者である国中博士によって行われた.図1にSPS2000発電部全体の電気ブロック図を示す.図2に太陽電池のユニット,サブアレイ,アレイモジュール,の階層を示す.太陽電池の1ユニットは90V,1.6Aの出力とし,12ユニットを直列に接続してサブアレイを構成する.110枚のサブアレイを並列に接続して1kV,180Aのアレイモジュールを構成する.アレイモジュールは幅3m長さ330mの短冊状である.アレイモジュールの重量は集電ケーブルを含んで約270kgである.アレイモジュールを45枚並列に接続して,北東,北西,南東,南西の翼(ウィング)を構成し,北東と北西のウィング,南東と南西ウィングをそれぞれ並列に接続した上で送電系に配電する.各アレイモジュールからの集電はポリマーの被膜を施した銅製のフラットケーブルで行う.SPS2000の軌道運動に伴い太陽電池面への太陽光の入射角は時々刻々変化する.図3に春分時の発電電力の時間変化に伴う送電出力の時間変化を示す.SPS2000の発電システムの主要な課題は,(1)放射線やプラズマ放電に代表される宇宙環境に対する耐性,(2)大電力化,(3)軽量化,(4)低コスト化,である.本章では課題(1)に関連して,高電圧部でのアーク放電の研究とアモルファス太陽電池への放射線照射実験結果の2編の報告を収録している.趙博士らによるアーク放電の研究では真空チェンバー実験を基に高電圧太陽電池のプラズマアーク放電の防止技術を論じている.これによりSPS2000でバス電圧1,000Vを使用する技術的な可能性が示された.今後このアーク放電防止技術を具体的な設計にどのように反映するかが課題である.一方佐々木博士らによるアモルファス太陽電池の耐放射線性の研究では,日本原子力研究所高崎研究所の加速器を用いて電子およびプロトン照射実験を行い,耐放射線特性のデータを取得している.その結果,SPS2000の1,100km軌道で10年間使用しても初期性能の90%以上が維持可能との結論が得られている.ただしアモルファス太陽電池は年々優れた性能のものが開発されており本研究で試験されたものは既に古いタイプとなっている.最新のより効率の高い太陽電池についても耐放射線性を確認しておくことが必要であろう.上記の課題(2)〜(4)については今後さらに研究を進める必要がある.現段階では軽量化と低コスト化の観点及び資源量の問題からアモルファスシリコンの太陽電池がSPS用として有力であるが,アモルファスシリコンの安定性と効率についてはまだかなり改良の必要がある.
- 宇宙航空研究開発機構の論文