農業生産の価値指標と食料自給率の課題-経済連携の拡大と農業政策の対応-
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概要
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政策目標として食料自給率の向上を掲げることにより,基本法農政は統一性のとれた政策体系となっている。食料自給率自体は,生産や消費の実態を表わすものではなく,熱量というひとつの情報に集約された指標であり,国内農業生産の価値を示す指標となる。政策目標としての食料自給率は,あくまで指針であり拘束力を持たない。なぜなら,計画を達成するために国家が生産及び消費にまで介入できないという限界を持つ。その意味で,きわめて形式的かつ象徴的な存在となる。しかし,ここに基本法農政の特徴を見いだすことができる。すなわち,多くの施策はこの食料自給率の向上のため,整合性を持って置かれている。基本法農政は,貿易の自由化が進展するなか,わが国における食料の安定的供給のため国内農業生産を増大させるという基本姿勢の下に,農業を守るという立場から,これまでのEPA交渉において農産物輸入を抑制する役割を果たしてきた。しかし,次第に経済連携もレベルを高めている。WTOもラウンド毎に関税率を下げ,しかも重要品目の自由度を狭めている。また,経済連携は排他的かつ差別的効果を強めている場合もある。政府も,TPPを含め高いレベルの経済連携の推進を打ち出した。わが国農業にとっては,これらレベルの高い経済連携には対応できず,大きなダメージを被ること必至である。少なくともTPPは,現在のわが国農業にはそぐわない。農業も,次第に国際化の方向への対応を余儀なくされつつあるとすれば,現状の食料自給率を基軸とした政策体系から脱却した対応が必要となる。自由度のある2国間経済連携から多国間への移行,特に東アジア地域での共通市場を目指した経済連携が,地域の発展と将来のわが国そして農業にとって重要となる。
- 2011-03-15
著者
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