社会的公正と貧困削減ツールとしてのイスラム金融
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概要
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本稿は、近年成長が著しいイスラム金融について、その特徴とこれまでの発展状況を概観するとともに、開発経済の立場からその現代的意義を検討するものである。イスラム金融は、イスラム法であるシャリアに則った金融取引の総称であり、その特徴として、(1)利子の禁止、(2)プロフィット・ロス・シェアリング、(3)シャリアに反する事業との取引禁止がある。イスラム銀行は、1970年代のオイルショック以降設立が相次ぎ、当初はリテール分野を中心に活動していた。近年は、原油高によるオイルブーム再来の中で、各種プロジェクトへの大口資金調達ニーズが高まり、イスラム債やデリバティブズなどホールセール分野が急拡大している。現在のイスラム金融は、グローバル金融化への道をひた走っており、一般金融に包摂されつつある状況といえる。しかしながら、イスラム金融の原点は、ムスリムの貧困削減と相互扶助を実現することにある。世界的規模で貧富格差の拡大が進む今こそ、イスラム金融のソーシャル・セーフティーネットとしての価値を見直すべきである。近年、マイクロ・クレジットや連帯ファイナンスが、貧困削減や社会的エンパワーメントを進めるツールとして注目を集めている。イスラム金融にもこれらの金融ツールとの共通点が見出せ、いずれも社会的金融と位置づけることができる。イスラム金融は、マイクロ・クレジットや連帯ファイナンスと同様に、既存金融システムから排除される社会的弱者を救い、社会的公正を実現する金融ビジネスモデルであるところに意義が見出せよう。
- 2008-10-30