消費者信用に関するEU指令改正草案と金融実務面から見た課題
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概要
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欧州連合(EU)委員会(European Commission)は、2002年9月11日に「EU加盟国における消費者信用に関する法律(law)、規則(regulation)、運用規程(administrative provision)に関する統一指令草案(proposed directive)(以下、「草案」)」を採択・公表した。その背景には、既存の1986年12月22日「消費者信用に関するEU閣僚理事会指令(以下、「旧指令」)」(87/102/EEC)が、消費者信用に関する必要最小限の基準しか設けていなかったことから、その後の各国の法整備が個別に進み、その結果、EUが意図したクロスボーダーの消費者信用サービスに関する共通ルールの欠如、ひいては消費者保護における加盟国の共通原則を欠く事態が生じたことがあげられる。消費者信用に関するEU全体にわたる新たなルールを意図した草案は、住宅ローンを除き、今日生じている新たな消費者信用の形態に対応することを狙いとしている。すなわち、借り手にとって融資に関する費用や条件に関する透明性が得られ、また国境を超えたかたちで融資条件の比較がより容易に出来ることになる。更に契約後、14日以内であれば、裁判手続や手数料の負担なしに契約を取り消すことが可能となる。一方、貸し手側は信用リスクを改善しうる機会を得るが、他方で与信を実行する前に顧客の信用度を十二分に調査する(know the client)義務を負うといった内容である。これに対し、各金融実務界からは、(1)すでに稼動している各国の信用情報機関の運用や体制等への影響が極めて大である、(2)各国の信用情報機関間の情報交換の必要性は否定しないが、国によってネガティブ情報しか保有しない国や、逆にポジティブ情報しか保有しない国の場合があり、与信業者は貸付の判断をそのいずれに求めるか等、多くの問題点が指摘された。これらの指摘等を受けて、本問題はさらにEU議会の法務委員会および経済金融委員会において、改めて全面的な修正審議が行われ、2004年4月20日にEU委員会の草案に対する修正案が本会議で採択された。これで約1年半にわたる指令案を巡る審議が決着を見たわけであるが、一方でEUにおける金融システムの統合という意味では、急速に拡大している消費者信用市場において今後に残された課題も多い。EU議会の各委員会の審議内容については、「月刊消費者信用」2004年7月号に詳しく紹介する。
- パーソナルファイナンス学会の論文
- 2004-09-30