成熟社会の消費者 : 「消費環境」の変化にどう対応するか(統一論題「消費者行動と消費者金融サービス」)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
1990年代から21世紀初頭にかけて、日本経済は深刻な不況に見舞われた。バブル崩壊に伴う経済停滞に加えて、グローバリゼーション、情報化、少子高齢化という潮流変化により、長期不況はなお先行きが見えない状況が続いている。この間、消費者を取り巻く「消費環境」はどう変わり、消費者はどう対応してきたか。本稿では、1990年代から21世紀にかけての消費者の意識と行動を明らかにするとともに、モノが溢れる豊かな現代の成熟社会1)の特徴を加味しつつ、中期的視点から消費者意識と消費行動の方向性をさぐる。もっとも特徴的なことは、「消費環境の変化と個人消費の不安定化」である。従来、景気循環に対して安定的であると認識されていた個人消費の持つラチェット効果が90年後半から有効に働かなくなった。その主因は、「消費環境」(所得・雇用、家計部門のバランスシート、将来見通し)の激変にある。物価がデフレ状態になり所得の伸び悩みが次第に恒常的なものと認識されるようになると、消費行動がより慎重になり消費性向の低下傾向が一段と進んだ。個人消費が不安定化になったのは、「選択的消費」支出の消費全体に占めるウェートが高まり景気に敏感に反応するような消費構造になってきたからである。消費環境に大きな影響を及ぼしたのが、消費者物価の持続的な下落である。全国の消費者物価は、1998年から2001年まで3年連続して下がった。衣料、外食、日用品など、身の回りの物価下落ぶりは「価格破壊」といえるほどである。こうした中、「贅沢な消費」と質素に済まそうとする消費を日常生活の中で使い分けるという「消費の二極化」現象が際立ってきた。この背景には、雇用不安が深刻化し所得格差が鮮明になってきたことがある。こんごの動向としては、「暮らし向きは悪化する」とみる消費者が増えており日本経済のデフレの深化と合わせて、消費支出は減少傾向を示すと予測される。長期不況に弾力的に対処してきた消費者は、バブル経済崩壊後の学習効果を踏まえて、商品やサービスの効用と価格を自分の物差しでしっかりと判断し満足できるものを選択する「成熟型消費」への転換をはかっていくものと予測される。
- 2002-11-01