量子スピンホール系における熱電効果の研究(修士論文(2009年度))
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概要
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量子スピンホール(QSH)物質は、バルクは非磁性絶縁体であり、バルク状態のギャップを横切るようにエッジ状態が存在する。この一つのエッジ状態は互いに逆向きのスピンが逆方向に進む状態対からなり、非磁性不純物等の存在下でも後方散乱をうけず(完全透過)、ギャップレス(金属的)であるという著しい性質を持っている。当初理論的に提唱されたが、実験でもHgTe量子井戸をはじめとした幾つかの物質でも確かめられている。2次元QSH系におけるエッジの完全透過電流は、時間反転対称性を崩さない限り安定であり、なおかつバルクギャップが量子ホール系などに比べると非常に大きい(Bi_2Se_3で0.3eV)という特性を持つ。これらの特性から、本研究ではエッジ状態の輸送を活用することによって熱電変換効果を大きくすることができるのではないかとの予測の下、2次元QSH系でのエッジ状態とバルク状態が共存した場合での輸送特性を計算を行った。一般的にエッジ状態数はバルク状態に比べると断然少ないため、エッジ状態の寄与が大きくなるように、ナノメーターサイズの断面積を持つナノサイズリボン状の系を想定した。エッジ状態はコヒーレントであることを仮定してLandauer・Buttikerの公式で計算した。その際に用いるべき系の有効長さサイズはエッジ状態の非弾性散乱長となる。熱電変換効率を特徴付ける性能指数ZTは電気伝導率、Seebeck係数、熱伝導率から計算した。化学ポテンシャルがバルクバンド端にあるとすると、エッジ状態はバルク状態とはキャリアの電荷の符号が反対であるため、エッジ状態とバルク状態の熱電輸送現象は競合することが分かった。どちらかが支配的であるかは系の形状、温度などさまざまなパラメータによって決まるという結果が得られた。様々なパラメータへの依存度を探るために、バルク輸送、エッジ輸送、フォノン輸送3者の比を無次元パラメータで特徴づけることにより、一般的な2次元QSH系でのZTの振る舞いを解析した。解析の結果、エッジ状態の優勢度にはエッジの非弾性散乱長が大きく影響し、低温になるとエッジ状態の非弾性散乱長が長くなるため、バルクが優勢な状況からエッジ状態が優勢な状況へとクロスオーバーが起こる。温度を下げていってクロスオーバーが起こる際、ZTは極小となりエッジが優勢になると再び増加する。このクロスオーバーは非常に細いリボンの場合は5-10K程度で起こることを理論的に見出した。
- 2010-11-05