蒸気のプール水中凝縮に伴う圧力および流体の振動
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概要
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本研究は、沸騰水型原子炉の冷却材喪失事故時に圧力抑制型格納容器内のドライウェルからべント管を通ってウェットウェルに流入する蒸気がサプレッション水中で凝縮する際に生ずる振動現象を、小型の模擬装置を用いた実験およびその解析から検討したものである。第1章は序論であって、圧力抑制型格納容器の開発段階ではほとんど考慮されなかったこの振動現象が注目されるに至った経緯を述べるとともに、現象の分類、特徴、モデルィヒおよび解析方法についての従来の考えかたを調べ、本研究が行なわれた背景、動機と目的を明らかにしている。第2章は、2種類の透明模擬装置を用いた大気圧下の実験について詳述したものである。第1の実験は、べント管内の蒸気流束が30kg/(m^2・s)以下の比較的低蒸気流束で生じるチャギング現象に焦点を合わせ、ドライウェルに相当するへッダー内の圧力変動の様相がプール水温及び蒸気流束でどのように変わるかを明らかにし、プール水が間欠的にべント管内へ逆流するチャギングの発生限界を求めるとともに、べント管の本数、長さと浸水深さ及びへッダー容積といった実験パラメータの圧力変動へ及ぼす影響について述べている。第2の実験は、チャギングより高蒸気流束で生じる気泡凝縮振動の特性を明らかにするため、蒸気流束30〜120kg/(m^2・s)の範囲で行なわれ、これまでの圧力変動に高速フィルムによる観察を加え、べント管内の圧力変動と界面変動の係り、及び上述の実験パラメータが圧力変動の振幅と周期に及ぼす影響を詳しく調べている。第1の実験データと合わせ広い蒸気流束に亘る現象マップを得、70〜80℃以上の高プール水温領域には別の振動様式であるバブリング振動が、また、これら3様式に囲まれた部分に間欠的振動(典型的なチャギング)と気泡凝縮振動の遷移域と考えられる振動様式が存在することが明らかにされている。第3章は前章で示された各振動様式の圧力変動と界面変動の特徴を矛盾なく説明できる振動現象のメカニズムについて述べたものである。蒸気の液中凝縮に伴う振動現象を周波数から見れば、べント管径1.8cm程度の小規模装置では2〜8Hzの低周波成分と200Hz前後の高周波成分から成っている。多べント管系におけるべント管間の圧力変動の周期性の有無から、高周波成分と低周波成分はそれぞれべント管出口に形成される蒸気泡とへッダーまで含んだ大きな蒸気空間をコントロール容積とする圧力振動であることが示されている。このメカニズムを使って、両周波数成分の混在する間欠的振動と遷移振動、高周波成分のみの卓越する気泡凝縮振動及び低周波成分のみから成るバブリングの特徴が定性的に説明されている。第4章は、第3章のメカニズムに基づく解析であり、種々の現象を定量的に明らかにするため次の4節から構成されている。4.1節は、チャギングによりべント管内へ逆流するプール水の運動を取り扱ったもので、界面がべント管内に存在するときは蒸気凝縮が実質上生じないことに着目した簡単な線形解析から、チャギング発生のためには蒸気流束に上限値が存在すること、及び蒸気流束の増加に伴い気泡凝縮振動へと遷移していく過程が明らかにされている。4.2節は、界面水側に温度境界層を設けるなど、より実際的なモデルを使ってチャギング現象を数値解析したもので、第2章の圧力振動及び界面変動との比較がなされている。この解析により、チャギング時には境界層温度が大きく変動し、界面がべント管内に存在するときはほぼ飽和温度に達しており、前節で用いた近似のなり立っことが示されている。4.3節は、気泡凝縮振動即ち高周波振動成分の周波数を代表的な気泡形状である円筒状、球状および半球状モデルに対する線形解折から求めたものである。周波数はこれらの気泡形状にはあまり依存せず、べント管径にほぽ反比例しプール水のサブクール度の2/3〜5/3乗に比例し、従来の研究を含む多くのデータとよく対応することが、また、2つの無次元量で表される厳密解は、大気圧近傍の蒸気に対しては従来からの気泡の自由振動近似と凝縮支配近似によく対応していることが示されている。更に、この解析結果を従来の相関式と比較を行い、それらの相関式が小規模装置による大気圧実験に基づくため、大気圧以上の実規模装置には必ずしも適応できるとは限らないことを述ペている。4.4節は、第2章で得られた振動様式マップに表われる4つの境界を解析的に求めたものである。バブリング領域を形成する2つの境界は蒸気流束に余り依存しない温度境界であって、それぞれ高周波および低周波圧力振動成分の発生限界として線形安定論より求められる。他の2つの境界は一種の蒸気流束限界である。チャギング限界は4.1節の考え方に従い、界面がプール水中へ達したときの大量凝縮による負圧(界面を引き上げる力)と恒常的にへッダーへ流入している蒸気による界面押し下げ効果とがバランスする点として与えられる。最後の遷移振動と気泡凝縮振動の境界は、気泡とへッダーにおける低周波振動(その2点間を圧縮波が伝播する時間より十分長い周期をもった振動)の周期性の程度を表すHodgson数が一定な線として与えられる。第5章は考察であり、前章の解析法の適応範囲の検討及びそれまで扱っていない観点から振動現象を眺めたものである。5.1節では、本研究で提案している解析法に出てくる種々のパラメータの寸法依存性の検討や日本原子力研究所等で行われた実規模試験のデータとの比較から本研究の手法が圧力や寸法の大いに異なる実規模装置にも適応可能なことを述べている。5.2節は、非線形振動が大きく発達したチャギングによる流体力を4.2節のプログラムを使って評価したもので、チャギングによる構造物への潜在的な衝撃力となり得る水柱運動の持つ速度、運動量および運動エネルギーの最大値は蒸気流束が5〜10kg/(m^2・s)の低蒸気流束域に現れることを示している。5.3節では、実際の圧力抑制型格納容器を薄肉円筒で近似した場合の固有振動数と解析による圧力振動周波数及び実規模装置におけるデータとの比較から、両者の共振の可能性を指摘している。5.4節では、気泡凝縮振動時の圧力振巾の最大値について、5.5節ではチャギング時の変動するべント管内の蒸気流束について、5.6節では高周波振動成分に対する従来からの音響モデルと本報告で主張している蒸気泡コントロールモデルとの関係について、それぞれ考察した結果が述べられている。第6章はまとめであり、本研究において明らかにされた事項を個条書きで簡潔に述べている。なお、付録には、本研究の趣旨から外れるものの、蒸気の液中凝縮時の圧力振動を研究する過程において技術者である筆者が特に興味を抱いた事柄として、蒸気のなす機械仕事の生成から見た圧力振動の発生限界及びチャギングを熱機関と見立てた場合の特性について考察した結果を述べている。
- 1988-06-30
著者
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