メタナショナル経営の実践に関わる一考察 : HSBCグループの事例を中心に
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
商業銀行は投資銀行に比べ、業務の現地への密着度が高く、外国人主体の経営は困難とされてきた。中でも、一般に個人及び中小の法人向けの取引を対象とするリテール業務は、世界展開が特に難しいとされる。多国籍リテール銀行業務の理論化では、競争優位の源泉は自国で培われた経営管理能力やマーケティング力、さらに、低い限界コストでこれらを海外に移転・活用できる能力にあるとされた。また、サービスを特定の顧客層に適応させる調整力や支店の立地選択、広告宣伝に関わる知識・スキルが重要な要素であることも指摘されている。しかし、こうしたこれまでの研究はプロダクト・ライフ・サイクル理論を視座としており、金融先進国として優位性をもつ米国の金融機関の活動が主な対象であった。自国の先進市場で開発・提供した金融商品・サービスの他国への移転は検討されているが、優位性をもたない国や地域からの知識の吸収は考慮されない。さらに、自国で培われた能力の海外への移転がどのように行われ、活用されるかについての分析もなされていない。本稿ではリテール展開において、市場の規模が小さく、政治経済的に不安定な香港に本拠をおきながら、多国籍展開に成功したHSBCを事例研究の対象とする。多国籍化のプロセスを、国際的に移動するマネジャーの存在に注目しながら明らかにすることを目的としている。研究にあたり、多国籍企業組織論の枠組みの中で研究されたグローバル・マトリックス組織や、トランスナショナル組織におけるカントリー・マネジャーと比較分析する。トランスナショナル組織には、世界規模の効率、各国のニーズへの柔軟な対応、世界規模の学習という相矛盾する要件を同時に満たすことが必要とされる。この中で、カントリー・マネジャーは、各国政府からの様々な要求に応えながら、世界の競合企業に対して市場の地位を防衛し、顧客ニーズに対応することを求められてきた。こうしたカントリー・マネジャーに対し、本稿ではHSBCのインターナショナル・マネジャーの役割、選考・育成プロセス、キャリアパスを検討し、メタナショナル経営研究の中で議論されるナレッジのキャリアー、ナレッジを集める役割を果たすマグネットの具体例として示す。これは、今後発展が期待される、日本企業によるサービス分野での多国籍展開の成功要件についても示唆となると考える。
- 2010-04-30
著者
関連論文
- メタナショナル経営の実践に関わる一考察 : HSBCグループの事例を中心に
- インド市場における日韓電機企業の比較
- インドビジネス展開における日韓製造業の比較 : マーケティング・ダイナミック・ケイパビリティーの3要素を中心として