1980年代の生活指導実践と「臨床教育学」 : 対象関係論の応用と個人指導概念の確立
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概要
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いじめや不登校問題への対応に伴ってスクールカウンセラーの配置が始まり,「臨床教育学」という新たな学問の創成が模索されている。1980年代に子どもの発達のもつれが深刻化すると,集団づくりの生活指導実践では,精神分析学の対象関係論を応用してその解明にとりくみ,それまで否定的に評価されてきた「個人指導」を再検討し,個人指導と集団指導の統一的な展開を図った。本稿では,それを生活指導実践の臨床的側面(教育と医療の近接面)の展開としてとらえ,その経緯と内容を明らかにする。第1章では,子どもの問題行動や校内暴力のメカニズムが,フロイト以後の発展である対象関係論の視点で解明されたこと,それは対象関係に現代日本の「家庭」と「学校」を組み入れ,生活指導実践において教育学と精神分析学とを架橋する試みとなったことを明らかにした。また第2章では,子どもの発達的苦悩に伴走する具体的な指導論の構築過程を追跡し,否定的に評価されてきた「個人指導」の再検討,および「集団指導」との統一的展開のための理論化作業について検討した。結論として,1980年代の生活指導実践の臨床的側面が,(1)家庭と学校を組み入れた対象関係論による子どもの発達矛盾の分析,(2)子どもの発達的苦悩への共感と自立に向けた内面的ドラマの洞察,(3)カウンセリングを含めた個人指導と集団指導との弁証法的統一,の3点において展開され,「臨床教育学」の模索に寄与しうるものであることを指摘した。
- 2004-03-31