北海道南部・苫小牧演習林の蛾類相の生物地理学的特性
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概要
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著者は1973-1985年,北海道大学苫小牧地方演習林において,蛾類群集の生態学的研究のため,継続的にライト・トラップ調査を実施した.これらの調査によって得られた採集記録と多くの文献により,苫小牧演習林の蛾類相を熱帯から寒帯にいたる,いろいろな地方との比較,および,北海道内各地との比較により,その特性を生物地理学的見地から検討した.熱帯から寒帯までの10地域(ボルネオ,沖縄,奄美諸島,九州,四国,本州,北海道,イギリス,デンマーク,フィンランド)間で13科25亜科に属する蛾類をもとに,分布上の類似性につき群分析をおこなった.その結果,これらの蛾類は,6つの特徴ある分布型に類別された.北海道の蛾類相は,おもに,Group IV(シャチホコガ科など3科3亜科)とGroup V(エダシャク亜科など2科10亜科)に属する蛾類によって構成されているという地理分布的特性が明らかにされた.さらに,宮田(1983)による蛾類の分布型の類型化の方法を用いて検討した.北海道の蛾類相は,おもに旧北区のアムール系要素とシベリヤ系要素の蛾類で構成されていることが確認された.これまでに,苫小牧演習林内およびその周辺で554種の蛾類が記録されている.これらをもとに,北海道内13ヵ所の地域(知内,北桧山,積丹,野幌,夕張,富良野,十勝南部,糠平,標茶,北見,層雲峡,大雪山,幌延)間で,宮田の方法を用いて,同様の比較,検討をおこなった,その結果,北海道内においてさえも,道北に向かって旧北区的要素の蛾類が増加し,逆に,道南に向かっては,東洋区的要素の蛾類の増加がみられた.結局,苫小牧演習林の蛾類相は,同じ石狩低地帯に位置する野幌や夕張の蛾類相とよく類似し,北海道内においては,ちょうど,南北両端の中間の傾向を示した.
- 1991-07-15