サハラ南縁地域の森林破壊と改良カマド : 世帯における実際の使用条件下での効率性
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概要
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本研究の目的は、アフリカサハラ南縁地域における、改良カマドの実際の使用条件下での有効性を検討することにある。この地域では、80%以上の人々が日常の炊事を薪に依存している。化石燃料にアクセスをもたない人々にとって薪は欠かすことができない燃料なのである。しかし、人口増加にともなって増大した薪の伐採が、「過伐採」として森林破壊、砂漠化の主要因のひとつとして問題視されてきた。アフリカでは、地面に三個の石を置いた「三ッ石」カマドが広く使用されてきた。しかし砂漠化要因としての森林破壊が注目されるなかで、地面に置いた石の間から炎が漏れてしまう「三ッ石」カマドの燃料消費効率の低さが指摘されるようになった。改良カマドとは、「三ッ石」カマドの「低効率」を改善するために考案されたカマドで、金属や粘土で炎を囲み、燃焼効率を上昇させようとするものである。サハラ南縁での改良カマドの普及は1980年代半ばより試みられてきたが、改良カマドが狙いどおり普及した例はごく稀であった。本研究では、チャド湖南岸地域の3世帯を対象に、実際の使用条件下での金属性改良カマドの有効性を定性的、定量的に考察した。3世帯のうち改良カマドを使用していたのは2世帯で、1世帯は「三ッ石カマド」のみを使用していた。定性的考察からは、改良カマドを使用する2世帯において、「三ッ石」カマドを併用していることが明らかになった。その理由は強い力で鍋の中をかき回す必要がある主食の料理には改良カマドが不向きであることにある。他方、定量的考察からは、コメの調理が、製粉したトウモロコシ調理よりも多くの薪を消費することが明らかになった。さらに改良カマドを使用する2世帯では、「三ッ石」カマドを使用する世帯よりも1人あたり、穀物1kgあたりの薪消費が多かった。普及する側にとって、熱効率に優れている改良カマドの有効性は明確なものであったが、実際の使用条件下において、その効率性が常に発揮されるとは限らない。薪の消費量に影響を与えるのは改良カマド使用の有無ではなく、むしろカマドの数、食材、薪の割り方であった。料理をする女性が薪消費の節約に対して注意を払っているか否かも薪消費に影響する重要な点であった。料理用薪材の消費節約によって、森林破壊を抑制するためには、改良カマドの数的普及だけではなく、食材、料理方法、薪の割り方といった社会文化面での配慮が不可欠である。さらにサハラ南縁地域における森林破壊抑制のためには、世帯におけるエネルギー使用と住民の樹木利用に関する統合的な研究が今後よりいっそう重要となろう。
- 2010-07-15