アラビア半島のビャクシン林にみる伝統的な資源利用と保全 : サウディ・アラビア西南部レイダ自然保護区における事例分析から
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概要
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本稿の目的は、ビャクシン林の保全にとって適切な計画を策定するためにビャクシン林における伝統的な資源利用とその社会的重要性を明らかにすることにある。アフリカビャクシン(Juniperus procera)の保全を目的に、サウディ・アラビア野生生物保護委員会(NCWCD)は1989年、西南部アシィール山地にある急傾斜地にレイダ自然保護区を設置した。アシィール山地のビャクシン林は乾燥地の高地にあって生物多様性を保持する貴重な森林である。レイダ自然保護区周辺は、19世紀には地域の首都がおかれたところであるにもかかわらず、現在では自然保護区に指定できるほど、自然環境が良好に維持されてきたと考えられる。その理由の一つは、部族領土の共有地であった点に求められる。ビャクシンが豊富な山岳の急斜面の部族の共有地においては、ナイーブと呼ばれる部族の代表の強い管理と保護のもと選択的にビャクシンを伐採してきた。違反したものには罰則もあった。ビャクシンの建材としての利用に関しても、質の劣る他の樹木の代用がきく場合にはそれらをあててビャクシンの伐採を極力抑えてきたこともある。同時に、農地のなかにビャクシンを意識的に残していた。それは枝打ちして太く真直ぐな建材を育てあげていくためであり、また農地の中に休憩する日陰を提供するためでもある。このようにして地域社会が守り育ててきたビャクシン林は、現代国家の近代的な環境保全の枠組みのなかで運用される自然保護区として維持管理される対象となったのである。アラビア半島の人びとが何らかの形で自然資源の利用を制限しつつ、野生動植物を育てて自然環境を維持していくための社会システムを構築し、歴史的に維持してきた事実を読み取ることができる。自然保護区周辺におけるビャクシン林の保全のための適切な計画には、1)最新の科学的研究成果と現地における社会的生活のかけはし、2)現地住民の世代間をまたいだ在来知識の再発展、3)新しい形態での資源管理システムの構築、の必要性が提起できる。
- 2010-07-15
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