炭素鋼の磁気びずみ効果による残留応力測定に関する基礎的研究
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概要
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本研究は,磁気的方法による残留応力測定上の基本的問題を取扱い,炭素鋼の磁気ひずみ効果に及ぼす塑性の影響を求め,表面のみならず内部の応力に関する情報を得るための計測法の原理を明らかにし,一つの残留応力測定法の可能性を示すことを目的として行った。第1章「緒論」では,機械や構造物における残留応力を,内部の応力分布まで含めて簡単に非破壊的に測定できる計測法の必要性を述べた。次に,磁気ひずみ効果を用いる応力測定法についての従来の研究を,応力測定および塑性変形の影響の二つの面より概観し,さらに渦流探傷検査法との関連を述べ,本研究との関係を明らかにした。第2章「磁気ひずみ効果の理論」においては,この研究の基礎となる応力と磁気量との関係を理論的に導いた。測定法の原理となる磁気ひずみ効果は,簡単な法則であり,応力以外の要因,すなわち,組成,組織,加工等によってできるだけ変化しないものが望ましい。これについては,磁化現象が可逆的に進行する高磁界中の磁気ひずみ効果を用いるとよいことを論じた。次に,Bozorthらの理論を拡張して,磁気ひずみに異方性のある鉄の磁気ひずみ効果を計算し,その効果の大きさ,磁界に対する依存性を求めた。第3章および第4章においては,第2章の結果を実験的に確かめた。第3章「直流磁界による応力測定」では,磁束密度と応力との関係を,純鉄および0.8%までの炭素鋼について弾性域および塑性域において実験し,きわめてよい直線性で成り立つ1次関係式を求めることができた。この1次式は,塑性ひずみの大きさには無関係に,加工硬化領域でも近似的に同じ係数で応力測定に用いることができることがわかった。また,磁気ひずみ感度の炭素量依存性,塑性に伴う転位密度の増加に対する磁束密度の不変性について実験結果に考察を加えた。第4章「交番磁界による応力測定」においては,高バイアス磁界中の可逆透磁率と応力との関係を求めた。関係式は,近似的に1次式で,磁気ひずみ感度は第2章の磁界依存性で予想される位置に大きなピークを持ち,このバイアスで応力測定を行うのがよいことが明らかになった。1次式の係数に対する影響は小さく,特に軟鋼では小さいが,保磁力等の補助的測定によって塑性ひずみを推定し,さらに応力測定の誤差を減少させることができた。第5章および第6章においては,第4章の結果を用いて,軸の表面の残留応力および内部の残留応力分布を求める測定法の研究を行った。まず,第5章「表面残留応力の測定」において,1軸塑性引張および水中に急冷した試験片に実際生じている残留応力を磁気的方法で測定し,X線応力測定法より得られた表面の残留応力値と比較した。熱処理残留応力の場合には,接線方向応力の影響を考慮すれば,軸方向X線応力と磁気的応力はよく一致した。また,軸方向残留応力の深さ方向の分布が求められる見透しを得た。塑性引張による残留応力は,X線応力測定により得られた相応力と一致することを示した。第6章「内部残留応力の測定」では,軸の内部に生じている残留応力の測定法の研究を行った。交番磁界の周波数が高いときには,表面の磁気ひずみ効果のみが検出され,低周波では,内部まで含んだ磁気ひずみ効果が検出される。そこで,第4章で求められた可逆透磁率と応力の関係式と,交番磁界の表皮効果の理論を組み合せ,残留応力測定法を組み立てた。次に,二重管試験片を用い,中心部応力検出の実験を行って,その妥当性を立証した。さらに,任意の形をした軸方向残留応力分布も多周波数の交番磁界を用いる測定より求められることを論じた。第7章「結論」においては,本研究において得られた成果を総括し,さらにこれに関連して将来行わなければならない研究について展望した。付録「軸方向残留応力の一解析法」においては,任意の形をした未知の残留応力分布を多周波数における見掛け透磁率の測定値より求める解析法と,計算例を示した。
- 1975-03-31