製造業集積における外部性維持に関する通時的視点 : 重工業地域の再生に照らして
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概要
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地域産業の意義や動向に関して1990年代以降,制度・習慣などの側面を重視する研究が活発になったが,本稿もそのような立場から製造業集積の再生について論じるものである.その際,大都市圏の臨海部など旧来から素材型・組立型の製造業が集積した伝統的重工業地域が既存の産業基盤を活かしつつ活力を取り戻す動き,すなわち,外部性の維持を,通時的な制度変化の視点から整理を行った.地域産業の活力維持についてIT関連やバイオ関連などラディカルなイノベーションを伴う成長分野を有する地域に比べ,漸進的なイノベーションを主体とした伝統的な重工業地域の再生への関心はあまり高くない.ただ重工業地域のなかには依然有用な技術が多く存在し,既存産業の枠組みを活かしたなかで技術や製品の開発を活発化させ活力を取り戻していく動きも重要と考える.重工業地域が活力を維持するうえでも知識の蓄積・創造の強化が重要な要素となるが,古くから集積が進んだ地域では長い間の成功体験などから,既存の組織やカルチャーの硬化・固定化が進み,集積の変革を阻害するなど負のLock-inに陥っている場合も多い.現状維持の慣性を乗り越え,知識の蓄積・創造が活発となるような生産・開発体制へ変革を進めるには長期的な視野に立った取り組みが必要となろう.制度の通時的変化を基に生産・開発体制再編の方向性をみると,(イ)集積おける技術開発の基盤・方法の見直し,(ロ)地域に存在する様々な主体による相互作用の多様化,(ハ)地域の社会的な調整システムの広がりといった点があげられる.新たな活動がもたらす効用への認知が,限定合理性を有する多様な主体に広がるには時間を要するため,既存の分業体制を基本としつつ,新奇性のある知識を確保する仕組みが徐々に広がっていくことになる.
- 2008-09-30