中国における生薬流通業の変容と農家流通事業体の展開 : 河北省安国市を事例に
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概要
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現在,中国では農民の所得向上を目的とした農業構造調整が推進されるなか,グローバリゼーションに対応すべく,農産物供給システムにおける品質管理の強化が実施されている.そうした背景の下で,高い収益をもたらす生薬原料の生産・加工,および生薬流通システムの変化が注目されている.本研究は生薬の集散地である河北省安国市における生薬流通業の変容過程と現在の実態を考察し,生薬を含む農産物の流通システムに関わる議論に貢献しようとするものである.生薬流通システムにおける生薬専業市場の役割の変化を解明するとともに,農家および農家集団によって運営される生薬流通事業体(農家流通事業体)の展開を明らかにする.1983年の専売制廃止により,薬材公司に統制されていた生薬流通システムは次第に破綻し,農家による流通業経営が可能となった.伝統的な生薬原料生産地である安国市において,薬用作物の販売から開始した農家流通事業体は,生薬専業市場の設立を契機に,より高い収益をもたらす生薬加工,およびその加工品の転売へと事業展開をしていった.専売制の廃止以降,次第に形成された専業市場を拠点とする生薬流通システムにおいて,安国市の専業市場は,集散地市場としての役割を果たし,生薬の輸出機能も担うようになった.2003年以降,中国政府は生薬原料の生産・加工,および生薬の流通段階における品質管理を強化した.生薬を重要な生産原料とする医薬品製造企業は安全性を求め,薬用作物の生産農家と供給契約を締結するとともに,自ら生産基地を建設するようになり,生薬流通システムにおける専業市場の役割が低下した.また,生薬流通業の経営認定制度の導入によって,新事業への参入障壁が高くなり,資金力の不足する事業体による新事業の展開は困難となった.結果的に,農家流通事業体における経営形態の分化が現れ,所得の二極化が進行している.
- 2008-09-30
著者
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