神霊との交換 : 南インドのブータ祭祀における慣習的制度、近代法、社会的エイジェンシー
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概要
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本稿は、南インドのブータ祭祀を対象として、植民地期以降の南インドにおける慣習的制度と近代法とのせめぎあいを検討する。その際に本稿では、先行研究によって看過されてきた儀礼における神霊の社会的エイジェンシーに焦点を当てる。ブータ祭祀を対象とする先行研究では、個々の儀礼や口頭伝承の記述と共時的分析が主流であり、植民地期以降の政治的・社会的変化という点から祭祀の変容を追究した研究は稀少である。一方、南インドのヒンドゥー寺院については、植民地政府と近代国家による中央集権化にともなう寺院の制度的変化が人類学における主題のひとつとなってきた。後者の研究では、19世紀以降、官僚制度が台頭するとともに近代的な法整備が進み、王権が衰退する中で寺院の自律性が失われ、寺院が国家と近代法の管理下に組み込まれていく過程が描かれている。本稿で検討するカルナータカ州のブータ祭祀においても、19世紀以降の近代法と国家による統治は祭祀に関わる人々の間に数々の対立と紛争を生み出し、ブータの社は制度的変容を余儀なくされてきた。だが、儀礼の実践における人々と神霊の対面的な相互関係と、憑依と託宣という形で現出する神霊のエイジェンシーに着眼するとき、慣習的制度から近代法へという単線的な変化を必ずしも前提できないことに気がつく。祭祀に関わる人々は、社の管財権や祭主権をめぐる裁判を通して近代法のアリーナに参与しつつ、神霊のエイジェンシーが最重要の意味をもつ儀礼の場に繰り返し立ち戻る。このことを通して、近代法のイディオムによって定められた人々の関係性は、神霊を至高の権威とする神話的な「慣習」のイディオムへと再び変換されるのである。本稿では、ブータ祭祀をめぐる裁判と、儀礼における神霊と人々の交渉の検討を通して、慣習的な宗教祭祀と近代法の関係を考察する。
- 2010-06-30
著者
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