夏眠場所でのカラスヨトウ属(Amphipyra)個体数の季節変化とカラスヨトウ(A.livida corvina)の性比と体重の変化
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概要
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1995年から1999年にかけて岐阜県谷汲村の神社拝殿で夏眠をするAmphipyra属6種,カラスヨトウA.livida corvina,ツマジロカラスヨトウA.schrenckii,オオウスヅマカラスヨトウA.erebina,シロスジカラスヨトウA.tripartita,オオシマカラスヨトウA.monolitha surniaとナンカイカラスヨトウA.horieiの個体数の変動を調べた.夏眠個体のカウントにおいてオオシマカラスヨトウとナンカイカラスヨトウの種同定は不可能であり,これらは同一種として数えた.この調査地点ではカラスヨトウが常に優占し,50m^2余りの小さな神社拝殿軒下に静止する個体数は多い時で248個体を数えた.その他の種はいずれも個体数が少なく,特にツマジロカラスヨトウは5年の調査期間に5個体しか出現しなかった.夏眠個体数は年によって,また季節によって大きく変動したが,最大個体数を示す年は,種ごとに異なっていた.東海地方におけるそれぞれの種の夏眠期間は,これまで調べられたようにほぼ決まっていた.また,岐阜市周辺の夏眠場所で1987年および1995年から1998年にかけてカラスヨトウを採集し,性を記録すると共に体重を測定した.カラスヨトウ雄成虫は,この属の他種には見られない触角のわずかな鋸歯構造で雌から区別できるが,夏眠後半の個体ではこの特徴が消失する(おそらくすり減るものと思われる).そのため全ての個体を二酸化炭素で短時間の麻酔にかけ,双眼実体顕微鏡により後翅の翅棘で性を確認した.体重は電子自動上皿天秤であらかじめ重量を計ったプラスチック容器に調査個体を移動して測定した.その結果,6月中旬から10月上旬まで,夏眠個体の雄と雌の比は,ほぼ1:1であったが,10月中旬より雄の個体数は減少し,雌の占める割合が増加した.また,体重は9月下旬までは多少雌の方が上回ったがほとんど差はなく,10月上旬になって明らかな差が現われた.その後,体重差は益々広がった.これらの現象は夏眠覚醒の季節とほぼ同時に始まっており,カラスヨトウ成虫に生理的な変化が起こっていることが明らかになった.カラスヨトウは夏眠期間中は,ほとんど光源や糖蜜に誘引されず,交尾行動も見られないことがこれまでの調査で確かめられている.覚醒の後,雄個体は交尾相手を求めて夏眠場所を離れ,活発に活動するためエネルギーを消費し,体重が激減するものと思われる.一方,雌は雄から精包を受け取り,卵が発育するために体重が増加するものと考えられる.しかしながら,夏眠期間中の体重維持や少し早めの体重増加などから,カラスヨトウ類は夏眠期間中も餌をとっていると推定された.
- 日本鱗翅学会の論文
- 2001-06-30