ハチノスツヅリガ(鱗翅目:メイガ科)の幼虫齢数と発育
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概要
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養蜂害虫である一方,生物検定用などにも広く利用されているハチノスツヅリガの幼虫齢数は,北米とフランスの個体群について7ないし8齢であると報告されている.そこで,日本の個体群について,その点を検討することと,飼育温度による形態変化(幼虫の頭幅)を調査することを目的として本研究を行った.餌は山口市内の養蜂家より入手した巣を高温処理したのち使用した.飼育は20℃,25℃,30℃,35℃の恒温器で日長16L:8Dとし,それぞれの温度下で2世代以上経過してから調査を開始した.1.幼虫齢数頭幅の頻度分布から判断すると,20℃と25℃では8齢経過し,30℃と35℃では7齢を経過した.25℃と30℃の間にこれらの違った経過齢数を分ける温度があること,および,高温が齢数を減少させていることが判明した.0.153mmから0.408mmの頭幅の間で,飼育温度により3齢経過(20℃と25℃)と2齢経過(30℃と35℃)の差が認められたこと,1齢とその後の齢の頻度分布から判断すると,1齢における飼育温度が齢数の差を決めていると思われた.本結果により,既往知見を統一的に解釈することが可能となった.2.頭幅の測定範囲頭幅の頻度分布を経験的に正規分布とみなし,各齢頭幅の測定範囲と平均値,標準偏差を統計的に算出した.1齢の頭幅範囲は温度による差はないが,2-4齢では差が認められた.7齢経過個体群(30℃と35℃)では,各齢ともこれらの温度間で有意差がないが,8齢経過個体群(20℃と25℃)では2,4,6齢で温度間で有意差が認められた.本種は18℃以下あるいは40℃以上では発育できないため,18℃に近い20℃では差を生じ,40℃から離れた30℃では差が生じなかったと推察される.3.頭幅に対する飼育温度の影響発育適温帯を離れた温度帯で成育する動物や昆虫で,体サイズが大型化する種があることが知られている.本実験の結果,本種は約30℃が適温と判断されたが,その温度帯を離れても頭幅に明らかな差はでなかった.これは各温度帯で飼育した経過世代数が少ないためか,あるいは飼育温度がサイズに影響しないのかも知れない.4.発育発育速度をもとに算出した卵から羽化までの発育段階の理論的発育零点は5.0℃,有効積算温度は1666.7日度であった.本種は羽化後24時間以内に交尾・産卵をするので,1世代の有効積算温度は1670日度前後となる.羽化率は30℃で最大であった.発育データの結果と巣の温度から判断して,本種の発育適温は約30℃と判断される.5.その他30℃と35℃では経過齢数が1齢少なく7齢となったが,8齢経過個体群と頭幅を比較すると,7齢経過個体群の2齢頭幅は8齢個体群の3齢頭幅とほぼ一致し,それぞれ以降の齢でも同様に一致する.つまり,両個体群の最終齢ではほぼ一致する.そこで,8齢経過個体群の2齢が過剰齢(extra instar)であり,7齢経過個体群ではそれが欠けていると解釈することができる.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1995-12-10
著者
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松本 聖子
Laboratory Of Insect Management Faculty Of Agriculture Yamaguchi University:(present Office)yamaguch
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矢野 宏二
Laboratory Of Insect Management Faculty Of Agriculture Yamaguchi University