NTTの事業部制マネジメント・コントロール・システム
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概要
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民営化によって生まれ変わった日本電信電話株式会社(通称NTT)は,形態は株式会社になったものの,一般的な営利企業とは異なる点を多く抱えている.それらは主に,公益事業であるという企業形態の問題と,ネットワーク・ビジネスであるという事業特性から生じるものだと言われている.このような事情をもつ企業が,組織効率の向上のためというキャッチフレーズのもとに典型的な事業部制マネジメント・コントロール・システムを採用した結果として,いろいろと問題を抱えることになった.本稿は,同社の事業部制マネジメントに内在する主要な問題を浮き彫りにし,それらの基礎にある本質的な問題を整理することを目的とするものである.第1節で,問題意識を明確にしたうえで,第2節ではNTTの事業部制の特性を理解するために,いわゆる米薗型のオーソドックスな事業部制が備えるべき基本的要件を確認する.そして,(1)本社と事業部との間に資本運用に関する包括的な権限委譲があること,(2)本社による調整・管理の主目的は,資本運用に関する目標斉合性を達成することであり,(3)企業内に市場原理を導入するものであること,という3つの要件に注意を向ける.第3節では,NTTの事業部制組織の構造と事業部収支の実態および,収支に大きな影響を与える電気通信料金制度について言及する.第4節では,利益の要素である収益,数量,新製品開発,固定費などが,事業部長にとってコントローラブルでないことを指摘することによって,NTTの事業部が利益責任の面で抱える問題点を明らかにする.それに加えて第5節では,NTTの筆頭大株主が政府であるという特殊事情から,事業部の業績評価指標や投資の意思決定基準と業績評価に用いられる資本コストが,米国型の理論から求めることが難しいとの問題提起を行った.
- 日本管理会計学会の論文
- 1994-08-29