中国の市民社会論批判 : 私的所有権の確立と社会格差の問題
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概要
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中国の市民社会論は、一九九二年に鄧正来と景躍進との共同署名による「中国における市民社会の構築」が発表されてから、すでに一六年が経過した。今では、それが中国の国家政策の策定や社会の発展(近代化)に巨大な影響を及ぼしつつある一方、新しい局面を迎えようともしている。つまり、中国の市民社会論者が市民社会概念を中国に導入した当初の目的は、中国で政治の民主化を実現させたいという、その一念にあった。だが、市民社会が実際に中国の現実のなかに現れつつある現在、とくに私的所有権の確立と貧富の格差の拡大が顕著になるにつれて、市民社会の研究は、彼らの予想をはるかに超えて、「社会主義的市民社会概念は可能なのか」、「市民社会に生じた格差をどう解消するのか」といった、中国社会における前近代性と社会主義体制の本質を突く難問に直面するに至っている。本論文では、これらの問題を西洋の近代市民社会論に固有な成立史に照準をあわせ、①市民社会と政治の民主化、②市民社会と私的所有権の確立、③市民社会と貧富の格差、という三つのテーマを設定し、中国の市民社会論を、それに対する反省と批判という角度から検討する。結論としては、彼らによる政治の民主化という市民社会把握は、きわめて不十分であり、中国で健全な市民社会を構築するためには、市民社会理論の原点、とくにスミス、ヘーゲル、マルクスの市民社会理論に立ち戻り、もっと全面的に、とりわけ経済的社会の角度から市民社会を研究・分析する必要があると指摘する。
- 一橋大学の論文