一八世紀英国による太平洋探検と科学 : 「天文学者」の数学的観察を中心に
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概要
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一八世紀後半のイギリスによる太平洋探検には、急速に科学的要素が包含されるようになった。国家や海軍がスポンサーとなる探検事業に、先端的な科学技術を駆使して、各種の数学的観察・測定に取り組む「天文学者」たちが参加することが常態化する。本稿は、天文学者の経歴、彼らが派遣された航海の概要、航海中に実践された観測の意味に着目し、この時代の探検に求められた知の収集過程の一端を解明することを目的とする。天文学者たちが派遣された航海は、地理的知識が乏しく、地理学者や哲学者たちの議論の焦点になっていた地域を目指すものであった。その為、彼らが実践した科学知の収集は、啓蒙の世紀における地理的認識と空間的想像力の再編成という文脈と明確に連動していくことになる。また、当時の探検事業の主たる目的は、植民地化や航海上の基地を建設するに適した場所の情報収集にあった。従って天文学者たちは、航海中に地理学と航海技術の向上に資する科学知の収集を精力的に担った。彼らの活動が示しているのは、拡張期のイギリス帝国において、天文学、航海技術、そして地図製作といった科学的活動が極めて重視されていた点である。とりわけ、地図の正確性や航海技術の向上に資する正確な経緯度の測定を実践するために、天文学者の同伴は不可欠であった。彼らの科学的活動の有用性が認知されたからこそ、一九世紀へ続く英国海軍と科学研究の連携という伝統が形成されたのである。