SSTを効果的に活用して適応的な行動変容に向かった事例について
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概要
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近年,精神科医療の変化に伴い,精神科を受診する患者の中に人格障害と診断されるものも多々見られてきている。人格障害は,偏った思考パターンと感情のコントロールの困難さのために繰り返される問題行動が主症状となる。これには発達早期の体質的因子と社会的体験の両方が関与しているといわれている。今回の事例も,幼少期から過保護な環境の下,両親の期待に添うべく抑圧された状況で育った。成人した現在でも,根底に母親に対する反発と服従といった相反する気持ちを強く持っており,本来人間の成長過程で幼少期に獲得していく母親との基本的信頼関係の確立ができていなかったことが,後に獲得していく自己表現の方法や適応的な行動の学習にも影響を及ぼしていた。事例は「キレる」と言った言葉をキーワードに,その行動に罪悪感を持ちながらも,キレるということを自己の防衛の手段として正当化して生きてきた。この事例に対して,筆者は本来の行動の変容に焦点を当てるSSTだけでは,事例自身の精神的な成長へのアプローチとグループ内で繰り広げられる感情面の揺れに対応できないと考えた。そこで対象者の問題にあわせた独自のやり方で治療を進めていくことにした。その視点として,集団精神療法的な介入を重視し,その場で起こってくる感情を扱っていきながら,クローズドグループという安心できる擬似家族の中で筆者や他メンバーの発言をモデルとして自分の中に取り込み,「キレる」という自分の行動の問題性を自覚して適応的な行動の学習をしたいという意識が芽生えてきた。
- 2002-12-20