アイスアルジーの生産と沈降(シンポジウム:鉛直混合と物質輸送)
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概要
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冬期結氷する海域の海洋生態系においては,海氷下層部に生息するアイスアルジーの第一次生産者としての役割は,海氷下の植物プランクトンの果たす役割に匹敵するか,時にはより重要である.植物プランクトンは海氷形成とともに海氷中にとり込まれるが,気温の上昇が起こる初春まであまり成長しない.春に気温の上昇とともに海氷中の海水が解け海水孔ができるとアイスアルジーの活動は活発になり,海氷下層部に移動するとともに太陽光を利用して急激に増加する.しかし,融氷期にはアイスアルジーは海水中に放出され,アイスアルジーとしての生涯を終える.日本沿岸で結氷する数少ない内湾の例として北海道サロマ湖をあげ,アイスアルジーによる基礎生産量と植物プランクトンによる基礎生産量を比較すると,結氷期にはアイスアルジーが上廻る.水深の浅い海域を除くと,その他の時期には基礎生産は植物プランクトンによるのみであるが,年間を通してみてもアイスアルジーによる基礎生産量は無視できない.従来の研究は主にアイスアルジーの生産について行われており,融氷期を含めそれ以降のアイスアルジーの動態についてはあまり研究されていない.その動態のなかには動物プランクトンによる捕食,凝集(アグリゲーション)による鉛直方向への運搬,さらに春季大増殖を起動させる「種(たね)」としての役割がある.動物プランクトンは積極的に氷の中のアイスアルジーを捕食することもあるが,量的にはアイスアルジーの一部分を利用しているに過ぎない.アイスアルジーは,融氷期にはその生物学的さらに物理化学的特性によってアグリゲーションを起こし,大部分はアグリゲイトとして鉛直方向に速やかに運搬される.その過程の中でアグリゲーションにとり込まれなかった細胞が春季大増殖の「種」となる.
- 日本海洋学会の論文
- 1993-08-31