人類の生活環境としてのアフリカ熱帯雨林 : 歴史生態学的視点から(<特集>人類史の空間論的再構築-移動、出会い、コンフリクト)
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
人類の生活環境としての熱帯雨林は、「緑の砂漠」のようなもので、そこでは人間は、野生の食物資源のみに依存して生活していくことができないと考えられることが多い。しかし、中央アフリカ熱帯雨林地域における最近の調査からは、食物資源が少ないとされている乾季においてすら、狩猟採集民の生存が可能であることが示唆されている。また、考古学的調査からも、中央アフリカの森林には農業以前の時代から人間が住んでいたこともしだいに明らかになっている。カメルーンでの最近の調査が示すところによれば、森林生活を支えるキー・フードは一年性の野生ヤムであり、これがエネルギー摂取量の60%を占めている。これらのヤムは群生しているが、そのような群生地は、以前に人間の影響でできたと思われる、限定されたギャップに見られる。ヤム以外の食用植物も成熟した森林よりも二次林の方に多く見られる。さらに、最近の歴史生態学的な調査からは、さまざまなタイプの人為植生がアフリカ内陸部の広範な地域に拡がっていることも指摘されている。したがって、このような人為植生の存在がこの地域の歴史にとってもつ意味を検討する必要があろう。赤道以南のアフリカの多数を占めるバントゥ系農耕民の祖先は、紀元前千年紀に現在のカメルーン西部からコンゴ盆地に移入をはじめた。彼らは、紀元一千年紀に、森林を切り開くための鉄器と湿潤環境に適したバナナを新しく手に入れたのち、コンゴ盆地の森林地帯の内部にまで分布を拡げた。その後しばらくの間、広範囲にわたって移動と分散を繰り返していたが、その間、村落あるいはせいぜい村落連合のような小さな社会単位で生活を営んでいた。このような分散した小社会は、小規模な生態系の攪乱を伴いながらも森と共存することができた。そこでは、成熟林とさまざまな更新段階にある二次植生を含むモザイク環境の再生産がつづけられてきたのである。現在、中央アフリカの熱帯雨林では大規模な伐採が進み、またその一方では、地球環境に果たす森林の役割に対する関心から、森林保護の動きも活発になっている。こうした状況において忘れられているのが森林に住んでいる人たちと彼らの慣習的権利の問題である。現在の森林の生態系と景観を歴史生態学観点から見ることが必要であり、そうすることによって、彼らの森林に対する慣習的権利の基礎を与えることが可能になるのではないか。
- 2010-03-31
著者
関連論文
- 人類の生活環境としてのアフリカ熱帯雨林 : 歴史生態学的視点から(人類史の空間論的再構築-移動、出会い、コンフリクト)
- 地球環境問題をどうとらえるか : 人類学の可能性
- INTRODUCTION: Persisting Cultures and Contemporary Problems among African Hunter-Gatherers
- 『地域』環境問題としての熱帯雨林破壊--中央アフリカ・カメルーンの例から
- 中央アフリカ・カメルーンの森から(森と人の生活)
- 生態史研究へのアプロ-チ--中央アフリカ熱帯雨林の例から (特集:人が大地に刻むもの--地域生態史の試み)
- 書評 池谷和信編 熱帯アジアの森の民--資源利用の環境人類学
- INTRODUCTION : Recent Advances in Central African Hunter-Gatherer Research
- A COMPARATIVE ETHNOBOTANY OF THE MBUTI AND EFE HUNTER-GATHERERS IN THE ITURI FOREST, DEMOCRATIC REPUBLIC OF CONGO
- The Forest World as a Circulation System: The impacts of Mbuti Habitation and Subsistence Activities on the Forest Environment
- 人と森 人の生活が森を育てる仕組み--イトゥリの森に住むムブティ・ピグミー (特集 シリーズ地球 アフリカに学ぶ--すばらしき人と自然の関係性)
- 物質・富・生命が循環する狩猟採集民の世界 (森の民の世界から)
- 森の民の生態と自然観 アフリカ、ムブティ・ピグミーの事例から
- PREFACE
- 狩猟採集社会における道具使用・協業・分配 : 霊長類社会との比較から
- アフリカ熱帯多雨林の文化と可能性
- ピグミ-のネット・ハンティング--
- アジア・アフリカに関する総合的地域研究教育拠点の形成 (特集 地域研究の最前線--知の創成)