グローバル競争環境下におけるステークホルダー論の再構築 : 統治性概念による動的関係性論の試み
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概要
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本稿の目的は、Michel Foucaultが定式化した「統治性」の分析フレームワークを適用し、多国籍企業とステークホルダー間の動的な関係性の捕捉を試み、新たなステークホルダー分析の観点とステークホルダー・マネジメントの創出を目指すことにある。多国籍企業が、グローバル化の急速な進展の中で持続可能な発展を遂げるためには、多様なステークホルダーとの関係性構築が不可欠である。本研究の問題意識は、グローバル化社会において、これまでのステークホルダー研究において静的に論じられてきた規範性の要素と企業中心の研究対象を、企業とステークホルダー間の動的な関係の捕捉へと転換させる必要性があるという点にある。この問題視点に基づき、分析のフレームワークとして、動的な関係性を分析することに優れている「統治性」概念を適用し、理論フレームワークの提言を試みる。統治性概念を適用すれば、企業とステークホルダーの動的関係性は次のように説明できる。すなわち、国家のみならず、国際機関、NGO、多国籍企業といった非国家組織の主体を組み込んだ、トランスナショナルな権力ネットワーク全体が現代のグローバルな統治性の態様であり、これらの統治主体が多国籍企業にとってはステークホルダーとして認識される。そして、企業とステークホルダーが、従属主体化の過程で権力を及し合う動的な関係が構築されるのである。本稿ではこのフレームワークをシェル社の事例を用いて検証し、次の2つのインプリケーションを得た。第一に、多国籍企業は、広範な領域に存在する現代のトランスナショナルな権力ネットワークを形成する統治主体を、ステークホルダーとして認識せねばならない。第二に、ステークホルダーとの動的なパワーバランスの中で、ある状況下で最適なステークホルダーとの関係性を同定し、自律的に、規範性の創出を含めた新たな価値を創出していくことが経営戦略として求められるということである。このインプリケーションにおいては、資源ベース論(RBV)、産業構造論(ISV)を包括し、組織の富の源泉を拡大して捉えるステークホルダービュー(SHV)が、多国籍企業の重要な成功要因であり、この意味で、多国籍企業とステークホルダーとの関係を動的に捉え、一定の状況下の統治と権力を内部環境に取り込む、新たなステークホルダー・マネジメントの重要性を探求することが有用とされるのである。
- 2009-09-30