大品系般若経典の序品の集会の菩薩衆の名前と性質について
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概要
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大品系般若経典(十万頌,二万五千頌,一万八千頌)の経の序品の冒頭の場面の記述では声聞衆の後に菩薩衆が出てくるが,その菩薩衆の多くの名前に関して,梵・蔵・漢を比較してみると,かなりの相違が見られる.本稿では梵文として十万頌,二万五千頌を用い,漢訳は光讃経と放光般若と羅什訳大品と玄奘訳の初会・二会・三会を用い,蔵訳は二万五千頌の二本の異訳と十万頌とを用いて,比較を行った.菩薩の名前の列挙においては,十万頌のヴァージョンは最も詳細である.玄奘訳をみると,一万八千頌⇒二万五千頌⇒十万頌の順で,菩薩名の数が15⇒26⇒40と増えて詳細になってゆくことが確認される.ところがその一万八千頌・二万五千頌・十万頌の三ヴァージョンを蔵訳で見てみると,ほとんど数に差がない.蔵訳の一万八千頌は二万五千頌に極めて近いことがわかる.興味深いのは,蔵訳の二万五千頌の二本の異訳の相違である.大谷No.731の蔵訳では37名を出すが,大谷No.5188の蔵訳では24名である.後者は二万五千頌の梵本や漢訳の諸伝承と一致するが,前者はむしろ十万頌の伝承と一致するので,前者は十万頌からの影響を受けて書き直されていると思われる.梵文十万頌では賢守Bhadrapalaの菩薩名が二度出てくる.蔵訳を見るとその二度目の菩薩名はBhadrabalaになっている.また,或るヴァージョンでは重要な菩薩名が欠けている場合があり,例えば羅什訳大品と蔵訳(大谷No.5188)では,慈氏Maitreyaと善勇猛Suvkrantavikrrminが出てこない.序品で菩薩の名前の列挙の前にある,菩薩の性質・特性の記述についても,梵本と蔵訳を比較してみた(漢訳は参照しなかった).すると,十万頌が最も詳細であること,また蔵訳の二万五千頌の二本の異訳には相違があることがわかった.先の菩薩名の場合と同様に,一つの蔵訳(大谷No.731)は十万頌の影響を受けていることが確認された.
- 2010-03-25