南極バイオプロスペクティング活動の実態 -日本の事例を中心に-
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概要
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南極バイオプロスペクティング(生物探査),すなわち南極の自然界から価値のある遺伝的ないし化学的物質を探し出す活動については,現在,南極条約協議国会議(ATCM)において,その規制の必要性についての重要な政策議論が継続している.そこでは,エンドユーザーの視点から,南極原産の微生物等を利用した特許等のデータを基に,大企業が商業目的で行う活動であるかのような印象が強くもたれていた.本稿は,2007年第48次南極地域観測隊員が,昭和基地周辺の湖沼から土壌を採集し,それから分離した菌株Antarctomyces psychrotrophicus Syw-1から有益な不凍タンパク質を単離することに成功し,隊員の所属機関である産業技術総合研究所などが当該菌株と不凍タンパク質について2009年に特許出願した事例を具体的に検討する.この検討をとおして,本稿は,これまでとは異なり,南極バイオプロスペクティングをアクセスの視点から実態把握することを提案する.その結果,南極バイオプロスペクティングを「商業的」と「科学的」に二分する議論は,同活動の実態を反映しておらず,よって,ATCMでの法的・政策的議論にとって必ずしも適切ではないことが分かる.
- 2010-03-30