愛媛県旧北条市の柑橘園地域におけるため池の水草の分布と土地利用・水質との関係
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概要
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ため池は稲作に必要な水利施設として築造された人工の水域である.瀬戸内海を取り囲む中国・四国・近畿地方は,全国で最もため池が密集している地域である.瀬戸内海沿岸地域に位置する旧北条市(現松山市,以下「北条」)において,ため池の水質と水草の調査を行い,ため池や農業について聞き取り調査も実施した.北条では傾斜地の多くが柑橘園(主にイヨカン)となっている.池の集水域に柑橘園が分布する池は富栄養であり,栄養塩類濃度が著しく高い池も存在した.一方,集水域が山林であるため池の栄養塩類濃度は低かった.北条の水草相の特徴は,沈水植物と浮遊植物が多いこと,ヒシ以外の浮葉植物が極端に少ないこと,水草の多くは水田雑草でもあることなどであった.ウキクサ科植物は極端に富栄養な水域にまで生育し,優占種となる池もあった.種が多様な池は,集水域に山林があり,栄養塩類濃渡が低く透明度の高い池であった.2か所の池では,堤防改修後に多様な水草相の回復と全リン濃度の低下を確認した.この事例は,柑橘園の拡大を含む土地利用の変化により,環境変化に耐性のない種が減少・消滅した可能性を示している.さらに,多様な水草の埋土種子集団が存在する池では,適切な環境改善により,多様な種の復元・保全が可能であることをも示している.数か所のため池が隣接して築造されている場合,距離的に近いため池であっても,水草相は互いに異なっていることが多いため,多様な水草を保全するには,できるだけ多くの多様な池を保全することが望ましい.
- 植生学会の論文
- 2009-12-25
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