「回復」を希求する : インド農村社会における不妊と「流産」の経験(<特集>メタモルフォーシスの人類学)
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概要
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本稿は、インド・マハーラーシュトラ州農村社会における「流産」を事例として、規範的身体からの逸脱を生きる不妊女性が、共同性に埋め込まれた自らの身体をいかに構成し直しているのかを明らかにするとともに、「不妊者」や「母」という差異化のカテゴリー自体の不分明さや曖昧さについて考察することを目的とする。非西洋社会における不妊を対象とする先行研究では、不妊は社会的規範からの逸脱であり、苦悩であると指摘されてきた。規範やカテゴリー分類の権力性に関心を向けるこうした研究では、差異化の規範に抵抗する主体の可能性は、おもに周縁化された女性たちの語りに見られるアイデンティティ形成の観点から論じられている。だが、逸脱する者のアイデンティティと同一性の政治学を問題とするこれらの議論では、逸脱を生み出すカテゴリーや規範は所与のものとして実体化され、それ自体の曖昧さや不分明さは不問に付されていること、カテゴリー形成の不分明さをささえる身体の偶有性については論じられていないこと、さらには抵抗や主体性が個人のレベルに留まっており、苦悩が関係性を表す概念であることを捉えそこなっていること、という問題点も指摘できる。本稿では、規範やカテゴリー化への抵抗という視座ではなく、むしろそのカテゴリー自体がパフォーマティブなふるまいによって構築されるものであることに注目し、逸脱した主体によってなされる、自己を取り巻く関係性を意味あるものにしていく希求性について考察する。そして、不妊女性によって語られ、ふるまわれ、交換を通して共有される「流産」の経験が、身体の偶有性のなかで規範と逸脱の調整をもたらしているということを明らかにしていく。
- 2009-12-31
著者
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