スリランカにおける津波被災後のコミュニティ再建事業 : 新聞記事の分析を中心として
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概要
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2004年12月26日にインド洋に発生したスマトラ沖大地震による大津波の被害を受けた国の一つであるスリランカを中心に、自然災害とそれに対する人間の行動について、特に復興に関する様々な見方について、新聞記事の分析を通して考えてみた。まず、政治・民族・宗教・イデオロギー的紛争と自然災害が発生する近年社会において、〈地域〉と〈国際〉のインターフェースである舞台を、メディアを通して多面的に見ることは意義があると考えた。また、津波の発生から一年以上経った現在、今一度立ち止り、これまでの復興過程をたどりながら、差し迫った社会の要求とそれらの要求に国際社会、そしてある特定の文化がどのように対応したか、考えてみようと思った。復興過程を記録・報道していた世界のメディア、特に新聞記事に焦点を当て、それらの記事がどんなことを伝えてきたのか、そこから読み取れる意味とは何かについて、津波に対する経験的アプローチよりも談話分析のアプローチを使って見ていくことにした。新聞記事は単に事象や出来事を報告するだけではなく、個人や団体の行動に対する解釈・再構成により、出来事の意味と認識になんらかの構造と様式を与えている。行為者と出来事の関係、あるいは出来事の間の因果関係を見出すことによって、復興に関する言説のいくつかのパターンを取り出せる。資料収集のなかで出合った様々な取り留めのない文章、話、ものがたりを考察し、相互に関連する、または対照する記事の分析を行う。そこで、この研究は津波にまつわるディスコースの分析になる。つまり、津波の実態よりも津波をめぐる様々な問題を扱うものである。津波に関する報道はさらに大きな根本的な問題につながる。それは、人間がどのように外の世界を認識するのかという問題である。津波と復興が当然ながら行政機関、非政府組織・民間団体、研究界やメディアの中で最大の検討課題になった。しかし、政治家、官僚、研究者、市民社会のリーダーたち、被災者などが異なる立場から課題を見る。課題を扱う主体によって、どれぐらい復興が進んでいるのか、どこに問題があるのか、誰の責任なのか、についての認識が異なってくる。いくら客観的といっても、認知のプロセスに左右され、あるいは自分の立場の影響で、情報が部分的にしか知覚されない。このことは、"We all perceive the world differently"という、人間のコミュニケーションの基本原則と一致している。研究者やジャーナリストの作業の中に現れたその異なる見方に注目しながら復興の過程をたどってみることがこの研究の概念的基盤である。具体的に、2004年12月26日から2005年12月31日までの約一年間アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、日本とスリランカで発行された新聞の記事内容を分析した。談話分析のアプローチによって記事内容を分析・考察した結果、以下のようなことを明らかにすることができた。出来事に関する行為者とその代表者を含めて、記事のテキスト生産者が〈復興〉という名の元で大きなレトリック作業に参加している。テキスト生産者は、自分の基盤になる社会的背景と期待されるオーディアンスによって、自分の思考様式や行為様式を正当化する談話を生み出している。分析を通して、談話・発話の背後にあるそれぞれの世界観、イデオロギー、利害関係の流れが読み取れる。復興のレトリックと復興の〈現実〉の間にある違いを明らかにしようとしている記事があれば、記事自体もレトリックとして〈現実〉から離れていることや記事による〈現実〉の構築ということもしばしば見られた。本研究によって、当事者と外部者の多重関係の重要性も明らかになった。国際援助活動家と外部者としての外国の新聞記者や専門家の重大な役割、援助金の公平な分配を配慮した復興過程や地域社会の態度に関する彼らの指摘が評価される中、援助活動家の中で専門家とアマチュアの隔たり、国際援助活動家と地域社会の対立などの問題も無視できないことが明らかになった。国際援助の中で〈地域〉、地元の役割、そして全体の復興活動に関する意思決定や政策作成の中での〈地域〉の役割が十分評価されたかという疑問が出てきた。特に、女性、子ども、障害者など社会的弱者に対する特別対策の重要性が多くの記事によって指摘されていた。現在の政治行政体制により津波被災者が「支配される」、「排除される」、「遠ざけられる」経験に置かれたことが浮かび上がった。復興過程が、民族的分離主義発想に左右されており、スリランカの政治社会的状況からかけ離れて語ることのできない状態にあることは言うまでもない。この分析・考察がコミュニケーションにおける〈対話〉、〈寛容〉、〈和解〉、〈協働〉、〈平等〉という概念の重要性を強調し、長期的復興過程のために、よりボトムアップ的、対話・相談・参加型アプローチの必要性を主張する。
- 2007-03-31