学際的な学術団体における倫理綱領の意義 : 手話学研究を事例として(アイデンティティ・マネージメントとネットワーク法)
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概要
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これまで,技術系分野における「倫理綱領の意義とは何か」という問いに対する答えとしては,「専門職による社会への宣誓である」という考え方が一般的であった.技術系分野では,技術の進歩が法令整備よりも先を行ってしまうケースや,整備された法令であっても,実は専門的知見から吟味すれば抜け穴があるケースが珍しくない.このため,倫理綱領の意義は,法令遵守とは独立に存在しなければならなかったため,あらゆる倫理学説が引き合いに出され,意義の説明に用いられた経緯がある.しかしながら,近年,国内の学術団体において,倫理綱領を策定する団体が急増している背景には,個人情報保護法など新法令の遵守を喚起する名目が見て取れる.また,日本政府からの告示や,国際基準なども,各学術団体の倫理綱領に影響を与えている.これらの関連法令や基準は,分野によっては多数あり,研究活動の遂行には細心の注意が必要になることもある.研究そのものの細分化・専門化が進む一方で,関連法令等が複雑化している現状から,法令遵守とは独立の専門職倫理という文脈だけでは,もはや倫理綱領の意義について一律に議論することはできなくなっているように思える.本論では,日本の学術団体における倫理綱領の実態調査の結果を報告する.さらに,近年の特に学際的な学術団体における倫理綱領の意義について,手話学研究を一事例としてとりあげ,市民を含んだ会員間による対話の要約としての倫理綱領という考え方を提案する.
- 2009-09-30