企業数と需要変動、および利潤の関係 : リサイクル制度を念頭に
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概要
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この論文は、参入企業数の違いによって、需要変動が各企業にどのような影響を与えるかを分析する。企業数が変動する標準的なクールノーモデルの分析においては、参入退出が自由な場合、固定費がなければ各企業の利潤がゼロになるまで参入が続き、最終的に完全競争の水準にまで価格が落ちることになる(クールノーの極限定理)。そこでは基本的に安定した需要曲線が仮定されている。しかし現実では、人々の選好、制度の変化といった様々な外生的要因により需要関数は変動すると考えられる。 寡占市場における需要変動についての議論は、寡占理論においては伝統的なトピックであるが、参入退出が自由な状況での需要変動の分析は、現在研究が進んでいる分野である。本論文では産業における企業数と需要変動、および利潤の関係を調べるのが目的である。現実への応用として、日本におけるリサイクル費用の前払い方式導入の動向があげられる。現在日本において自動車産業は前払い方式が導入されているが、家電業界は前払い方式導入について激しい抵抗を示している。その理由の一つとしてしばしば指摘されることは、家電品はそもそも安価であるから、リサイクル料を価格にくわえると値上げ率がおおきくなるというものである。それも1つの理由として考えられるが、我々が注目したのは、自動車産業と家電産業の産業構造の違いである。自動車産業は寡占化が進んでおり、企業数がとても少ないのに対し、家電産業は相対的に企業数が多くより競争的である。前払い方式の導入は需要曲線を下方シフトさせるため、このダメージは参入企業数が多い家電業界の方が大きい可能性がある。本論では理論的にその可能性を明示し、現実との関係をみていくことにする。