「不等性の類比」について(I 哲学,慶応義塾創立百年記念論文集)
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概要
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すでにカエタヌスが正当にも指摘した様に、類比analogiaの問題は主題的にいって捉えにくいものであるがさりとて類比に対する無知乃至無視は我々の哲学的研究を決して形而上学的水平にまで齎らさない様に思われる。蓋し、形而上学の対象である「存在である限りの存在」は真実に類比的だからである。私がこの小論文の標題として掲げた「不等性の類比」anologia inaequalitatisなる表現はその出典を辿ってゆくと、アリストテレス・トマス的伝統に於いて認容されてきた類比の三型態を体系的に展開させたと目されるカエタヌスの「名辞の類比について」De Nominum Analogiaにまで歴史的に遡ることができる。ところで類比の三つの様式、即ち「不等性の類比」analogia inaequalitatis、「比例乃至帰属の類比」analogia proportionis seu attributionis、「比例性の類比」analogia proportionalitatisのうち、第三の様式である「比例性の類比」が真正の形而上学的類比であることは今日大方のスコラ学者の一致した見解である。しかし第一の様式の類比、即ち「不等性の類比」が真正の形而上学的類比ではないにしても、それが如何なる類比であるのか、また「比例性の類比」に対してどのような位置を占めるか、については従来必ずしも詳かであったとは云い得ない。換言すれば、「不等性の類比」が類比という語の真義から云って類比とは似而非なるものであるのか、或いは不完全ではあるがしかし真の類比であるのか、に関しては尚多くの論議が存する。そこで以下カエタヌスの「不等性の類比」についての論述を手懸りとして、この型の類比の本質とその「比例性の類比」に対する位置如何の問題を考察してゆこうと思う。
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