財政規律と国民意識:米国のデータを基にした分析
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概要
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背景: 財政を考えるにあたって、必ずと言って聞こえてくるのが「国民の理解」という言葉である。過去の論文を見ても、財政規律というテーマに絞って(1)国民意識の存在の証明、(2)国民意識の影響の証明を明確にしたものは存在しない。そこで本稿は、国民意識、経済指標、そして立法活動に注目し、国民意識の存在および影響の探るための検討を加えた。 方法: アメリカですでに発表された1981年から2006年の財政問題を、3つのカテゴリー、つまり、I国民意識、II経済指標、III立法活動に分類した。さらにそれぞれを、I–(1)寄付金額、I–(2)財政赤字を最大の問題と考える人の割合、I–(3)経済一般を最大の問題と考える人の割合、II–(1)財政赤字、II–(2)GDP、II–(3)住宅ローン、II–(4)失業率、II–(5)実質賃金、II–(6)政府の支出、III–(1)財政赤字削減法案数、III–(2)財政的影響を与える法案数、III–(3)歳出を増加させる法案数、III–(4)歳出を減少させる法案数、III–(5)歳出を増加させる法案数と減少させる法案数の比、の14のサブカテゴリーに分類した。それぞれをspearmanの順位相関係数による有意差検定を行い、63の分析結果を得た。 結果:14のサブカテゴリー間のspearman解析で得た63の分析結果をクロス表にまとめ有意差の割合を調べたところ、I国民意識とIII立法活動の間の有意差の割合、I国民意識とII経済指標との間の有意差の割合・II経済指標とIII立法活動との間の有意差の割合は、それぞれ53%、16.7%、33.3%と、国民意識と立法活動の間の相関に関してはるかに高率であった。さらに、国民意識のサブカテゴリーの財政赤字を最大の問題と考える人の割合と立法活動との相関係数の有意差ρ 値を算出すると、財政赤字削減法案数・財政的影響を与える法案数・歳出を増加させる法案数・歳出を減少させる法案数・歳出を増加させる法案数と減少させる法案数の比は、それぞれ、0.0053, 0.1887, 0.0041, <0.0001, <0.0001であった。それに比較し、経済一般を最大の問題と考える人の割合と立法活動との相関係数の有意差ρ 値は、0.539, 0.0719, 0.2864, 0.6946, 0.7933であった。つまり、国民意識は財政的影響を与える法案という指向性の無い立法以外のすべてに強く影響していた。また、経済一般を最大の問題と考えるという漠然とした国民意識は、財政に影響を与える法案という志向性の無い立法に弱い影響を示唆するものの、これ以外の指向性のある立法活動に影響しなかった。また、立法活動には、種々の経済指標(33.3%)より国民意識(53%)がより鋭敏に影響していた。 結論: 国民意識は、指向性の無い財政的影響を与える法案数以外の財政赤字削減法案数・歳出を増加させる法案数・歳出を減少させる法案数、歳出を増加させる法案数と減少させる法案数の比すべてに強く相関関係を示していた。このことは、国民意識の存在とともに財政規律を目指す立法活動と何らかの関連性をもつことを示唆するものであった。さらに、立法活動は、経済指標より国民意識により鋭敏に反応していた。
- 2009-09-15