感性という領域への接近 : ドイツ美学の問題提起から感性を扱う民族誌へ(<特集>芸術と人類学)
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概要
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本稿では、人類学による「芸術」研究を、人間の感性の領域に迫る試みとして位置づける。そのためにまず、今日よく知られ、広く流通している「芸術」観の形成に多大な影響を与えたドイツ美学の論者たちが「芸術」という語を用いて何を語りたかったのか、人間の活動のどのような領域を指し示したかったのか、その内容を今一度検討する。その原点において、美学があくまで感性の学として出発していたことを確認した後、ドイツ美学が提起していた問題を、1)感性についての記述、2)「芸術」における規則と創造的才能、3)「芸術」と知覚、身体の関係、に分けて整理する。次いで、主としてアフリカの民族誌資料を援用しながら、五感に訴える感性や直感、創造的才能などの諸領域を取り込んだ記述・分析の重要性を指摘するとともに、その際の起点、参照点としてドイツ美学が果たし得る今日的役割を再考する。それらを人類学側からなされてきた「芸術」概念の再検討と今一度交差させ、「芸術」という枠組みに必ずしもとらわれることなく、人間の感性や直感、それらに支えられた精神活動や表現行為にどのように光を当てることができるのか、その可能性を問い直す。このような検討をつうじて、今日の人類学が「芸術」を語ること、ないし「芸術」を研究することがみいだし得る意義と可能性を再考するとともに、人間の感性の力の所産と、その力の在り処や作用に迫るための足がかりを探求する。
- 2008-09-30