トルコの定期市における売り手-買い手関係 : 顧客関係の固定化をめぐって
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
もの・人・情報が錯綜する状況において、人はどのように市場交換を行なうのだろうか。経済人類学者たち([MINTZ 1961;SWETNAM 1978]など)はこれまで、市場交換における、固定的で人格的な顧客関係に注目し、分析を重ねてきた。本稿は、混沌とした市場交換の場である現代トルコの都市定期市における、売り手-買い手間のやりとりと関係を検討することを通して、それらの議論に一つの新たな視点を提示する。まず、対象定期市をめぐる諸相を記述し、そこでの売り手-買い手関係にはどのようなものがあり、その関係によって何が実現されようとしているのかを検討する。さらに、買い手たちは必要に応じていかに関係を選び、組みあわせているのかを明らかにする。また、売り手と買い手の関係性については、とくに顧客関係の固定化に着目する。取引きにおけるもの・人・情報に関する不確実性が高ければ、リスク・コスト逓減のために顧客関係が固定化されるという学説([PLATTNER 1985]など)を手がかりに、固定的な顧客関係と不確実性との関連を検討する。この分析から、以下のことが明らかになる。さまざまな点で不確実性の高い定期市において、顧客関係の固定化が回避される傾向がむしろ優勢である。買い手たちは、不確実性の高さを認識したうえで、だからこそ売り手を特定化することを避け、その場における最大の選択肢から、自ら吟味し最上のものを選ぶことを実現している。また、固定的な顧客関係が構築される場合、選ばれるのは自ら農牧業を営みつつ定期市で産品を売る商人であることが多い。この傾向には、都市民の食品安全性志向などの現代的現象も関連している。人々は定期市において、購入するもののみならず、取引き相手との関係性も、最大限の選択肢から吟味して主体的に選びとる可能性を享受していた。トルコの定期市という場は、このような徹底的な吟味と比較検討に格好の空間なのである。
- 2009-06-30