遜りとポレミックの弁証法 : ハーマンからキルケゴールへ
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
本論文は、キルケゴールがハーマンから受容した多くの契機のうち、「遜り」と「ポレミック」に注目して、これらの契機をキルケゴールがいかに自らの思想構築に役立てていたのかを明らかにする。ハーマンはソクラテスを範としながら、神および他者に対して遜らずに自らの知を過信する啓蒙主義哲学に対して、ポレミカルな態度を取った。キルケゴールは一八三六年からハーマンに取り組む。しかしキルケゴールは、その思想生活の中期から後期にかけて、自らが考えるキリスト教理念により適切な形で、遜りとポレミックを関係付け直そうと試みた。キルケゴールは、躓きの可能性を見出すことによって、ポレミックと遜りのいずれをもいささかも損なうことなく、むしろ両契機を相互に支え合うものとして論ずることができた。ハーマンの宥和論が、遜りとポレミックとのアポリアに対して、いわば消極的に応ずるに留まったのに対し、キルケゴールのキリスト教信仰は、遜りとポレミックとを弁証法的に両立させる生を、卑賤のキリストの倣いに見出した。
- 2009-06-30