ポワントテクニックの誕生とロマンティック・バレエに関する覚書 : 強靱なつま先が生み出す儚き幻想世界の出現
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概要
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足の指を完全にのばしたまま、つま先立ちを行うポワント・テクニックは、19世紀前半にヨーロッパ各地で同時発生的に出現した、新しい、ダンス・アカデミックの技法である。バレエは、誕生から300年をかけて、重力からの肉体の開放を可能にした。ポワントという運動そのものが持つ、動きとしての垂直方向へのベクトルと、物語としての天上へのベクトルが一致することで、ロマン主義の文脈と見事に合致し、この時代のバレエのあり方、そして後のバレエの形をも決定する、バレエ史最大の発見となったのだった。このポワント・テクニックとロマン主義的幻想性が有機的に結びついた最初の作例が、1832年にパリで初演された『ラ・シルフィード』であり、ヒロインの空気の精を踊ったマリー・タリオーニは、重力を感じさせないポワント・ワークにより、手の届かない理想の象徴を舞台空間に出現させることに成功した。鑑賞者はその高度なテクニックによってのみタリオーニに熱狂したのではなく、作品中のポーズやパを通して、「中空を漂う空気の精」そのものを見ていたのだった。
- 2009-03-31