朝顔の巻考 : 朝顔の巻の時間が表現するもの
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概要
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源氏物語の時間の特質は諸氏の指摘するところである。宇津保物語や落窪物語のような外在的な時間によって支えられる従来の物語と比べるとき、源氏物語においては物語世界の外側に流れる日常的、公共的な時間が背景に退き、物語の持続性を示す指標に過ぎないことは明らかである。神野藤昭夫氏が「源氏物語では、虚構世界の外側の時間に従属し倚り懸るところに時間が成立するのではなく、物語の世界の開展に従って内側から時間が紡ぎ出されてゆく。」と述べているように、源氏物語の時間は「光源氏の内側を流れる時間」なのである。それはもちろん、光源氏が通過した歳月を単に継続的に記したという意味ではない。いうなれば、光源氏の感情に深く関わり、むしろ、それにもとづいて直線的な時間の流れを越えた多様な形態を呈する時間なのだ。今回考察していく朝顔の巻もそのような時間を持つ巻の一つである。そこで朝顔の巻の特徴的な時間に着目し、そこから見えてくる物語世界の様相を明らかにしながら、そのような時間表現がとられた意義を考えていきたいと思う。
- 東京女子大学の論文
- 1993-03-15