明治前期の学術書の翻訳 : 矢野恒太郎編輯『自由教育論』について(論文編)
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概要
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明治10年代に刊行されたスペンサー『教育論』の四種の訳書のうち,内容を重視した翻訳である矢野恒太郎編輯『自由教育論』を取り上げて,その翻訳態度を検討した。矢野訳では,大胆な原文の省略が行われ,日本の実例に即して例示を改変している。さらに漢字片仮名交じり文の中に,平仮名書きで日常にひきつけた訳語がみられる。四書の中でも名詞の原語に対して一定した訳語を最も与えており,辞書を利用しながら,文脈に左右されずに,原語を機械的に訳語に置き換えていることがうかがえる。訳書間で訳語が統一しない中で,「実学」「価直」などの訳語の例をみると,従来ある語の中で,読者になじみやすい語を選んでいると思われる。矢野訳は,「正訳」である有賀訳と同じ単語対単語訳を行っているが,自由に省略を行いながら論述している「意訳」である。原文を完全に無視するのではなく,原語の名詞を忠実に拾って訳出しているといえる。