小学校英語活動における児童のコミュニケーションに対する認識 : 年間授業時数とALTの招聘回数の違いが児童の認識に与える影響
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概要
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本稿は,福岡市内の公立小学校85校の3〜6年生約9300人を対象に,英語活動の年間授業時数やALTの招聰回数の違いが,児童の(1)コミュニケーションへの関心・意欲,(2)コミュニケーション能力の自己認識にどう影響するのかを調査したものである。調査結果は,年間授業時数が30時間以上の学校をタイプ1,同16〜29時間をタイプ2,同15時間以下をタイプ3というグループに分け,さらに各タイプをALrの授業頻度別に,ほぼ毎回ALTが参加する学校群をA,ほぼ2回に1回という学校群をB,3回に1回以下をCとして,タイプ別に(例:1と2,1と3),さらにALTの招聰頻度のグループ別に(例:2-Aと2-B,2-Aと2-C等),t検定で平均値を比較するという方法で分析された。(1)の結果は,タイプ1の学校群では,ALTと話したいという意欲だけでなく,日本人である友達や先生,また言語に関係なく色々な人と話したいという関心・意欲が高いことが分かった。学年別に見てみると,学年があがるにつれて,コミュニケーションへの関心・意欲は下がっており,現在の「聞く・話すこと中心の英語活動」が高学年の発達段階に適当かどうかの検討が必要である。ALTの参加頻度別に見ると,タイプ1ではA正丁が2回に1回か3回に1回以下かという頻度はさほど児童の認識に影響を与えてないが,タイプ2ではALTが毎回来る学校とそうではない学校で,高学年においてALTの影響が強く,タイプ3では中学年に影響を与えることが分かった。しかしALTが2回に1回か,3回に1回以下かという頻度の差は児童の認識に影響を与えないことが分かった。つまり,年間授業時数が20時間程度でALTが毎回来れば,定期的な交流で人間関係を築く高学年はコミュニケーションへの意欲・関心が増し,15時間以下でALTが毎回来るとALTの存在自体に刺激を受ける中学年では頻度が少ない学校よりも意欲・関心が高まることが予想される。しかしどの学年もそれ以下の頻度では影響を受けないことから,毎回ALTを招聘することが難しい学校では3回に1回以下であっても,2回に1回と同じ効果があることが示唆された。(2)の結果は,中学年では年間授業時数の違いによって大きな差は見られなかったのに対し,高学年では差が顕著になっている。また,リスニングや発音といった音声に関する能力については,学年があがるにつれて自己認識は低くなり,年間授業時数が下がるほど中学年と高学年の差が広がっていくことが分かった。ALTの招聘頻度は,タイプ1では影響が見られないのに対し,タイプ2では,高学年で顕著な影響が見られ,タイプ3では中学年に影響が見られた。つまり,高学年では授業時数が多ければ,コミュニケーション能力に関する自信が増すが,「聞く・話す」といった音声の能力については,学年が上がる,また年間授業時数が少なくなるほどその自信が低くなる。年間授業時数が20時間程度ある場合は,高学年の自信を高めるが,授業時数が15時間以下の学校では,基本的な内容を繰り返し扱っているので,中学年は「英語ができる」という自信を持っていることが予想された。今後5・6年生に対して年間35時間の英語活動が導入され,週1回定期的に英語活動が行われるにあたって,ALTは毎回来なくとも3回に1回程度のコミュニケーションの機会があれば,担任が発達段階にあわせた内容や活動を工夫していくことで,子どもたちの意欲や関心を伸ばし,自信をつけさせることは十分可能であること,また中学年の段階で少ない時数であってもALTと出会い,英語の基本的な語彙や表現に音声で親しんでおくということはコミュニケーションへの関心・意欲,また自信を高めるために有効であることが示唆された。
著者
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