日本語の会話文における主節前置の談話用語論的分析
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概要
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本研究は、日本語の副詞節+主節のような複文の節順について、実際の会話文をデータとして談話語用論的分析を行ったものである。日本語の複文の節順は、副詞節+主節という節順が普通であるが、実際の会話文では主節+副詞節という有標の節順が起こる。本論文では、1)日本語の複文における節順に対する規則、及び2)主節前置の談話語用論的要因を探った。2)に関しては、自由な語順を持つ言語、すなわち語用論的要因によって語順が決定されることの多い言語の単文での文頭要素の特徴と比較しながら、談話内の話題性を中心に分析を行い、単文の文頭要素との共通点があるか否かの検証を試みた。結果として、1)日本語の一般的節順は、会話のエピソード中の出来事の時間的経過、及び、原因-結果、理由-結果、条件-結果、のような論理的経過を表す順序と一致すること、すなわち、これらを認知する人間の知覚的順序と一致すること、2)主節前置は、a)会話のエピソードの流れの中で、主節と先行する文がより密接な関係を持ち、エピソードの出来事の時間的経過、及び前述のような論理的経過を表す順序に忠実に従うために起こること、b)主節そのものが、質問、質問に関する答え、焦点要素の存在、否定、文要素の強調などの語用論的に有標な情報を伝達する役割を持ち、その部分に焦点を当てる為に起こるということがわかった。そして、語用論的有標性が要因となる場合は、たとえ普通の節順、すなわち副詞節+主節が前述のような時間的経過、ならびに論理的経過との一致をみていたとしても、これに優先することが明らかになった。これらのことは、自由な語順を持つ言語の単文における文頭要素が果たす機能と、日本語の有標の節順における主節が果たす機能とが共通することを示唆しており、それらはまた、話し手の、会話参加者および会話の流れに対する認知状態が語順にどのように作用するかを示したものでもある。