岩手県雫石盆地の西部より産出した中新世魚類
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概要
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ここに紹介する化石魚類は,岩手県雫石盆地西部に発達する国見峠層と,小志戸前沢層から産したものである.これらの2累層は,脊梁山地の中新統標式層序(横黒線沿線)に対比すれば,前者は岩相上大石層に,後老は岩相および生相からみて黒沢層,相野々層および菱内層に対比されよう.国見峠層は,岩相上淡緑色凝灰岩と硬質泥岩との互層からなる下部部層,硬質泥岩を主とする中部部層および硬質泥岩と淡緑色凝灰岩との互層からなる上部部層の3部層に区分しうる.化石魚類は,これらのうちの上部部層の上限近くで,上位の坂本川層(小繋沢層,山内層に対比される)の下限より70m±下方によこたわる,層厚2m±の凝灰岩中に限定されて産出する.鑑定しえたものは,ソコイワシ科(Bathylagidae):Bathylagus sencta sp. nov., D. obesa sp. nov.,ヨコエソ科(Gonostomatidae):Ohuus kitamurai gen. and sp. nov.,ハダカイワシ科(Myctophidae): Diaphus shizukuishiensis sp. nov. D. sp. (1), D. Muraii sp. nov., Lampadena nanae sp. nov.,イタチウオ科(Brotulidae): Glyptophidium litheus sp. nov.,チゴダラ科(Moridae): Lepidion miocenica sp. nov.,など5科6属9種で,このほかに,未鑑定のソコダラ科およびカジカ科魚類とエビ(Metapenaeopsis sp.)とをともなっている.これらのうち,Ohus kitamurai以外は,すべて現生属にぞくし,現生同属はいずれも水深200-400〜500mの中層および底層に棲む,いわゆる深海魚類である.Ohuus kitamuraiは,外形上現生のCyclothone microdon GUNTHERに酷似する.後者は,現世における最も代表的な小型の深海魚で,その分布は汎世界的であり,またその垂直分布については,水深500mから1500mにおよび,まれに8000mの水深から採集されたという報告がある.しかし,Ohuus kitamuraiは,形態からみても,それほどの深度のところに棲息していたものとは思われない.これらは,類縁種(すべて現生種である)の地理的分布からみると,現在の四国以南の太平洋沖合魚類相に極めて近いように思われる.したがって,これら魚類は,暖流の影響下にあった当時の地向斜海域において,現生同属と同じような生活を営んでいたのであろうと推測するのが,妥当なように思われる.筆者は,これらを国見峠化石動物群と呼称する.つぎに,この国見峠化石動物群の死因と,埋没環境とについてふれてみると,上述の諸事実に加えて,1)国見峠層の上部部層には,かなり流紋岩類が熔岩流として挾まれており,2)含化石凝灰岩はラミナおよび漣痕に富み,化石魚類の中には,その波面に対して規則的な関係を示しているものがあり,3)また,各個体には,一次的に傷ついたと思われる痕跡がないが,同時に,沈着後腐敗したと思われる痕跡も見当らないことなどから,この動物群は,急激な海底火山活動によって,〓が破裂したか,あるいは火山灰の懸濁によって窒息死したものと推定される.また,それらを埋没させた海底は,少くとも400m±の深度を有する嫌気性海底ではあったが(含化石層を挾む上下層には黒色泥岩が多い),若干ながら底流があり,魚類遺骸の中にはいったん沈着したのちに,多少なりとも二次的に流されて固着したものもあると考えられる.小志戸前沢層から産する化石魚類は,Diaphus sp.およびItatius (?) sp.(イタチウオ科)の2種で,同層の下部部層を構成する砂質泥岩の中に含まれており,共存種としてLinthia sp. (L. cfr. nipponica)が確認されている.しかしその産出層準の近くからは,Conchocele nipponica, Lucinoma acutilineatumその他の,いわゆる耶麻化石動物群の異相と考えられる軟体動物化石や,Cyclamina sp., Sagarites sp.および夥しい魚鱗(ニシン科のものがもっとも多く,ハダカイワシ科のものがこれについでいる)が産する.また,この部層は,ところにより石油臭を呈する.国見峠層産の化石魚類と同じく,小志戸前沢層産の化石魚類も,すべて現生属に同定され,しかもいわゆる深海魚類である.しかし,同層は,岩質,底棲軟体動物化石および魚鱗の量からみて,国見峠層上部部層が堆積した当時よりは浅化した海底に堆積したものではなかったか,と思われる.したがって,これらの魚類は200-400mていどの海底に棲んでいたものと,考えるのが至当であろう.また,同層の堆積当時にも,近くの海底火山活動が行われていた証拠があるが,含化石層準附近には余り火山質物がなく,また化石魚のなかには(D. sp.),沈積後多少腐敗分解したと思われるような証拠もあるので,それらの死因を,直ちに火山活動に結びつけるのは,早すぎるように思われる.
- 地学団体研究会の論文
- 1962-03-25