花崗岩の起源
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概要
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よくしられているように,現在,花崗岩の成因については,火成論・変成論の二大学説が対立している.筆者は,近著「火成岩成因論(中・下)」において,この問題についての批判的総括をこころみ,結論として,一々の花崗岩の形成には,マグマ性物質が重要な役わりをしていることを認めたが,そのような花崗岩マグマの起源については,堆積岩類の花崗岩化過程を重視する,むしろ変成論的な見解をのべた.しかし,その後,この問題をさらに検討した結果,花崗岩マグマの起源について,上とはことなる見解をえた.そのあらましは次のとおりである.1)筆者のこれまでの考えでは,大陸地殻を構成している花崗岩質物質は,もともとは地下深部からH_2Oによってはこびだされてきたものとされていたが,このような考えには難点があることがわかった.即ち,最近の地球物理学的資料によると,大陸地殻の花崗岩質物質の質量は,大体1.2×10^<25>g程度であり,一方,地球表層部(岩圏・水圏・気圏)にあるH_2Oの総量は,大体2.2×10^<24>g程度である.Morey等の実験的研究によって,H_2OにとけこむSiO_2その他の造岩物質の量はごくわずかであることがわかっているので,そのことからすると,上記の量の花崗岩質物質をはこびだしたにしては,地球表層部のH_2Oはあまりにも少なすぎる(地球の歴史の比較的初期段階に,分解してO_2になったH_2Oや,地球圏からにげさったH_2Oのことを考慮しても,同じことがいえる).従って,問題の花崗岩質物質は,H_2Oによってはこびだされてきたものではなく,むしろ,もともとマグマ状物質として,地下深部から.上昇してきたものと考えられる.2)おそらく超塩基性物質からなると考えられる上部Mantle中での,花崗岩質マグマの形成機構について検討した.これには,Mantle C-層の成因についての島津康男の説を用い,地下数100kmの高圧下における輝石・かんらん石の分解と,SiO_2の遊離を重視した。即ち.そのようにして遊離したSiO_2は,適当な物理・化学的条件の下で,アルカリ長石成分と共に,ある種の花崗岩質マグマを形成するという考えをえた.3)このような考えにたった場合,問題になるのは,一々の花崗岩の形成に関係した酸性マグマは,その時々にMantleから分離してきたものか("初生的"のものか),それとも,古い時代にそのような過程でできた花崗岩質岩石が再溶融したものか("再生的"のものか)ということである.これを解く一方法として,花崗岩中の鉛の同位元素比を用いることを提唱した.これについては,他の機会に,くわしくのべるつもりである.
- 地学団体研究会の論文
- 1960-11-25